『作家の人たち』(☆3.4) 著者:倉知淳

イメージ 1

 押し売り作家、夢の印税生活、書評の世界、ラノベ編集者、文学賞選考会、生涯初版作家の最期…。可笑しくて、やがて切ない出版稼業―!?

Amazonより

 ここ数年はどうしたんだっていうぐらい本が出てる倉知さん。そんな倉知さんが寡作(?)時代の思いを迸らせた懇親のブラックユーモア小説・・・というわけではなく、巻末に倉知さんが言っているように、いわゆるほんとの悪ふざけ的な小説。基本はありえないんだろうけど、でもここの部分だけは案外と・・って思わせるところがあるのがちょっとリアル。

「押し売り作家」
しつこい持ち込みで、大手出版社の文芸編集者たちを辟易させている「倉ナントカ」という、冴えない中堅のミステリ作家。果たして、彼の正体は―—?(Amazonより)

 出版社に自分の原稿を売り込みに来る売れない万年初版作家のモデルは明らかに倉知さん自身。実際にここまで売り込みした事があるのかは謎ですが、最後で明らかになるちょっとした仕掛けが表すのは、実際の作家さんにとってこの短編の内容は案外と切実な問題なのかも・・・。


「夢の印税生活」
「くれぐれも会社は辞めないように」。苦節十年、念願の新人賞を受賞した川獺
はそう編集者に忠告されたが、「背水の陣」とあっさり会社を辞めてしまう。1年目の収入は846万円あまりだったが……。(Amazonより)

 なんとなく知ってる印税の仕組み。改めてみると、本当に専業作家で食べるのって大変だなと思わされます。好きな作家さんでも実際は大変な人もいるんだろうな。。。


「持ち込み歓迎」
大々的に持ち込み原稿募集のキャンペーンを張った地球出版。直接面談方式をとったのだが、24歳のフリーターから70過ぎの老人まで、誰も原稿を持たず、頭の中の“物語”を語り始め……。

 持ち込みから生まれたスター作家としてある意味伝説となった京極夏彦のエピソードを振りにしつつ、原稿すら書いてこない持ち込み(とっていいのか)ネタを畳み掛ける。個人的には最初の持ち込みがもろスター・ウォーズだったのがツボでした。


「悪魔のささやき」
「明日の〆切を延ばしてほしい」(ベテラン作家)。「書評家に誉められたい」(中堅エンタメ作家)。「超売れっ子の原稿がもっとほしい」(中間小説誌の編集者)。悪魔は願いを叶えてくれたが……。

 本当の悪魔が出てきちゃって広がるストーリーは、「世にも奇妙な物語」「笑うセールスマン」チック。この短さにも関わらず三本のネタをきちんと纏めてます。まあ、オチの読みやすさは愛嬌でしょうか。
 
「らのべっ!」
隆盛を誇るライトノベル界でヒット連発の雷神文庫副編集長・祐天寺。矢継ぎ早にパッショネイトにスマートに流麗に仕事をこなす、彼のような編集者に業界は支えられているのだ。

 なんか小説というより漫画の登場キャラの一人のようなクソのような編集者。ここまで極端な人はいないのかもしれませんが、もしかしたらどれかのエピソードはほんとにあるのかも・・・。


文学賞選考会」
築地の老舗料亭“泥田坊”で行われている植木賞選考会。“大家”と“売れっ子”揃いの5人の選考委員による選考は白熱した。2作に絞られたのは、文學春秒社と赤潮社の本。栄冠はどちらに……。

 なんとなくこのモデルになっているのは芥○賞か直○賞あたりなのか、と想像できるのですが、一時期主催の某大手出版社の作品が受賞しやすいなんて噂も流れたような気がしますが、そんな噂以上にブラックな選考過程が。こんな忖度しまくりの文学賞は嫌すぎる^^;;


「遺作」
俺の本は売れない。もうどうにもならない。絶望し、飛び降り自殺を図った作家の身体が落下の途中、なぜか宙に止まった。彼の脳裏にみじめな人生が蘇った後、素晴らしい“新作”のプロットが浮かんだが……。
 
 かなり特殊な設定ながら、ある意味作家としての叫びが一番伝わってくる作品かもしれません。このとき作家が思いついたトリック、気になるわ・・・。


採点  ☆3.4