寝台特急「出雲」+-(プラスマイナス)の交叉 (☆3.2) 著者:深谷忠記

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 出雲の日御碕で女が殺された。しかし、そのとき、容疑者には、寝台特急「出雲」に乗っていたという絶対のアリバイが!巧妙に殺されていく4人の男女、犯行の動機まで解明されたが、逮捕には遠かった…。
 東京・出雲を結ぶ壮大なアリバイトリックに、恋人探偵の壮と美緒のコンビが挑戦する著者自信の傑作。

Amazonより

 深谷さんは古本屋でよく本は見かけますが、これが完全に初読。なぜこれを手に取ったかというと、アリバイトリック好きの有栖川有栖さんがある本で勧めていたから。

 それにしても著者の言葉が奮っています。

 お読みいただけば解り易い、それでいて、一見かなり難解なアリバイ・トリックを考えてみました。必要なデータはすべて作中に示してありますが、他の人の案出したトリックだったら、たぶん僕には解けないでしょう。
 主人公たちと一緒にブルートレイン「出雲」に乗り、ひとときの山陰・謎解き周遊をお楽しみください。


 なんという自信。発表当時の時代を考えると、西村京太郎さんの作品に代表される通り、アリバイトリックといえはトラベルミステリーとワンセット。私も結構読ませていただきましが、その中でもここまで堂々と読者への挑戦を語った作品は記憶にありません。

 個人的に王道のトラベルミステリのお約束?としては、基本読みやすく分かりやすく、なおかつちょっとした旅行案内にもなるところだと勝手に思ってますが、この本もそういった意味ではお約束を外してません。逆に言えば中盤くらいで凡そ犯人や動機の見当はつきますし、初期の島田荘司作品のトラベルミステリのようにアリバイトリック以外の部分が濃厚という訳ではないので、あっさり感は否めないです。

 となると、あとは自信たっぷりのアリバイトリックがどうかというところ。
正直トリックそのものは複雑かつ先鋭化した新本格以降の作品と較べると、やはり古臭さはありました。そもそも、純粋なトラベルミステリになればなるほど時刻表トリックの幅の狭さがどうしても出て来てしまうので、しょうがないと思います。

 でも、この小説のほんとに優れたところはミスディレクションのうまさにあります。普通に考えれば思いつく可能性のあるトリックだと思いますが、読み手の思考の中からその可能性を排除する描写の仕掛けがあって、私はなんだそんな事かよと思う前にそういうことかと驚きました。
今の時代に読んですらそう思うので、西村トラベルミステリの全盛期にもし読んでたらそれ以上の衝撃があったかも知れませんね。
そういう意味ではトリックにうぶだった若かりし頃に読みたかった作品かなと思いました。

最後に、どうやら恋人探偵シリーズの1冊のようですが、「恋人探偵」という括りは謎でした。だって探偵役は壮だけじゃん( ̄▽ ̄)


採点  ☆3.0