『水魑の如き沈むもの』(☆3.6)


まずはあらすじ。

近畿地方のとある農村。村の人々が畏怖し称えてきたのは、源泉である湖の神・水魑様だった。
刀城言耶は祖父江偲とともに水魑様の特殊な儀式を観に 行ったのだが、その最中、事件は起こる。神男と呼ばれる儀式の主役が湖の船上で死体となって見つかったのだ。犯人は見つからない。衆人環視ともいえる湖上 の船、不可解な状況での事件だった。
惨劇はそれだけにとどまらない。儀式を司る村の宮司たちが、次々に不可解な状況で殺されていく。
二転 三転のすえに示された真犯人とは……。 

yahoo紹介より

シリーズ新作としては、「密室の如き籠るもの」、長編としては山魔の如き笑うもの」以来になる刀城言耶シリーズ。

山魔、密室と以前のシリーズに比べて読み易くなってる気がするんですが、その傾向は今回も続いているような気がします。
シリーズ長編のお約束である複数の視点による三人称は今回も健在ですが煩くはまったくないし、たくさんの登場人物の名前も大枠さえ把握してれば問題無い感じで、厭魅のような同じ名前の連発が無いだけでこれだけすっきりするかと(笑)

今回はリアルタイムの事件が起きるのがかなり遅い(過去の事件はありますが)です。目次を見てると結構人が死んでそうなんだけどな~と思ってたら、後半怒涛の展開で死に倒しました^^;;
ま、そうはいっても前半が単調というワケでもなく、しっかり読ませるリーダビリティは健在でした。過去の事件に関する謎解きや村に伝わる伝承や怪しげな倉など興味をそそられるキーワードが散りばめられて、この先物語がどう広がってそして収束していくのか、期待感を煽ってくれます。

が・・・・・
後半怒濤のように繰り広げられる連続殺人とその解決編の駆け足っぷりが個人的には今ひとつ。
怒濤のように起こる殺人事件に関しては事件の背景を考えるとまあしょうがないかな、と思うのですが、解決編については言耶が関係者を一同に集めて、その場で推理する(推理を披露するのではなく、ほんとに行き当たりばったりで推理する)というユニークな手法をとってますけど、いまいちそれが生きてないかなぁ。
名探偵というもの、意外とみんなこんな風に行き当たりばったりだよ、という風なアンチテーゼかという訳でもなく必然としてこの手法がとられてるん訳ですが、必然(真相をつきとめる)の帰結が見え見えになんですねぇ~。
だから推理をしながらどんどん真相がひっくり返っていく、という部分も首無や山魔ほどのカタルシスが感じられなかったなぁ。
なによりさっさと奴を殺してしまえば終わりじゃんと(笑)。

あとは全体としてのバックボーンの薄さも感じました。これまでの長編はそれぞれの土地の民習が作品に深みを与えてくれてたと思うのですが、今回は村の成り立ちや登場人物(特に悪役を一手に引き受けてくれたあの方)の背景について淡泊だった気がします。

ラストのオチもこれはこれでありなのかなぁ。それまでがあまりに奴の所為で不幸になりすぎただけに、これぐらいふわっと終わったら読後感の良さが残ってくるのかも。

ミステリとしては十分及第点以上だし、読んでる最中は非常に楽しめたんですが、終わってみるともう少しこってりしたものを読みたかったなというが残ってしまいました。


採点  ☆3.7