『ラットマン』(☆4.4)



まずはあらすじ。

姫川はアマチュアバンドのギタリストだ。高校時代に同級生3人とともに結成、デビューを目指すでもなく、解散するでもなく、細々と続けて14年になり、メンバーのほとんどは30歳を超え、姫川の恋人・ひかりが叩いていたドラムだけが、彼女の妹・桂に交代した。
そこには僅かな軋みが存在していた。姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなったときの奇妙な経緯は、心に暗い影を落としていた。
ある冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。
事件が解決したとき、彼らの前にはどんな風景が待っているのか。
新鋭作家の新たなる代表作。

yahoo紹介より

「ソロモンの犬」を中断して返却してしまったので、桃太郎ネタを十分に楽しめない(?)まま挑む久しぶりの道尾さん。
自分の読書歴を見てみると、『シャドウ』『向日葵~』以外は微妙な評価をつけてました。
さてさて、今回は・・・

久しぶりに当たりましたよ~。
道尾さん、やっぱりおもしろい小説かけるじゃないですか~^^
冒頭のエレベーターのくだりから引き込まれましたが(この物語も読んでみたいな~)、過去と現実が錯綜する贖罪の物語。
ホラー、倒叙本格ミステリ、この本の構造自体も何度も転換していくうえに、様々な伏線とミスリードに思い切り振り回せれて、真相がわかった時には「おお!!」と思いました。
現実の事件の真相自体は、ストレートに書くと、「うむむ・・・・」とちょっと首を捻りたくなるところもあるんですけど、物語の構成がいいせいかきちんとまとまってたと思います。主人公のお姉さんが見た宇宙人の正体と真実はバレバレやなあ・・・と思ってたのですが、後半に軽くひっくり返されました。
このあたりはアンフェアといえばアンフェアなのかもしれないけれども、その分読み手に伝わる衝撃は大きいのでは。
そしてすべてが明らかになったあとに明らかになる過去の事件の真相に対峙する登場人物の心の叫びがズシリとくる。

とにかく真相にたどり着くまでの過程がいい。
過去の事件を引きずる主人公が、ある出来事をきっかけにスイッチを押してしまう。
この主人公のトラウマの描写部分が非常に出来がよかったので、ついつい彼に感情移入して読んでしまいました。
まさに著者の手のひらで躍らされたっていうところでしょうか。
犯罪そのものを肯定するわけではないけれども、事件に巻き込まれてしまった登場人物たちの行動はそれなりに納得できた気がします。
そういう点ではバンドという括りもいい方向に働いたのかなとも思います。
バンドを通して培った信頼感があるからこそ、登場人物の心のジレンマのところに説得力が持たせられたのかなと思いました。
それでも、片思いの彼の行動は歯がゆいし、こういう感じでドラマーの交代があったら、バンドそのものが解散しちゃいそうな気がしましたが^^;;

個人的な好みになってくるかもしれないけれども、こういったタイプの苦い青春劇(というには少し登場人物の年齢が高い?)には弱い傾向があるのかな~。
たとえば東野さんだと『宿命』とか『卒業』、法月さんの『頼子のために』、まほろさんだったら・・・・えっ、最後だけよくわからない???
そうですか、まあ、とにかくなにか感じ取ってください^^(身勝手)

どうしてもミスリードを優先させた、曖昧な視点の切り替わりなど若干ぎこちないのかな、というところはあり『シャドウ』には及ばないのかな・・というところもあるのですが、代表作(現時点)のひとつには挙げていいと思います。



採点  ☆4.4