『灰色のダイエットコカコーラ』(☆4.3)


「覇王」として君臨した祖父の高みに至るべく、「特別な自分」を信じ続けようとする「僕」。
北海道の片隅で炸裂する孤独な野望の行き着く先は平凡な人生か、
それとも支配者として超越する「覇王」の座か? 

yahoo紹介より

ぐはっ、記事一番乗り目指してたのに負けた。(ゆきあやさんと二人だけだが……(ーー;))

出る出ると言われて、多分半年以上遅れた本作品。
講談社BOOK倶楽部の「夢色の青春コメント」によると、本になるまで5年費やしたそうな。
でも間に『1000の小説とバックベアード』で、第20回三島由紀夫賞受賞したわけで、発売の遅れは結果オーライ?
とにかく、広島のジュンク堂に買いに行ったら、平積みで1冊しか残ってませんでした。
売れてるのかなあ~^^

で、やっと本題。
これはいいと思う。
「失われた10年を代表する記念碑的傑作(帯より)」は言いすぎ?という気もするけど、普通に現時点での佐藤さんの代表作なんじゃないかな。
平山夢明ほど美しい残酷さは無く、伊坂幸太郎ほどにリズムは無い。
舞城王太郎ほど孤高の独創性は無く、西尾維新ほどに流麗な軽みもない。
ひとつひとつのパーツの厚みは無く、それぞれを組み合わせてもどこかごつごつした歪みと薄っぺらさが残る。
でも、そこが佐藤友哉の魅力なんだ。
そう言ってもいいかもしれない、と思うほど一個の作品としての完成度は見える。

内容の路線としては、デビュー作『フリッカー式』への回帰を感じさせる部分はあるが、主張的な部分は『クリスマステロル』や『1000の小説と~』と変わらない。
「じゃあ成長して無いじゃん」って突っ込まれるかもしれないが、そこはそれ。否定のしようが無い。
ただ『クリスマステロル』に比べると、自己擁護と社会批判における独りよがり的な稚拙の裏に自己批判と社会肯定の対比がある。
『1000の小説~』、そしてこの作品と少しづつ作家として、というより佐藤友哉としての内面の変化が感じられる。

これは多分に島本さんとの結婚が影響?
いままで「俺は凄いのに、周りがバカだから認められない」と思ってたところに、やっと理解してくる伴侶が見つかって、「人生も悪くないぞ!!」みたいな。
だから、この作品の主人公が佐藤さんに被って見えてしょうがなかった(笑)。
まあ、もしかしたら昔からの「ゆやたん」フリークには、逆に小さく纏まっちまったなあ^^;;;と思っちゃう気がしないでもない。
でも、少なくともこの作品ではそういった批判を受けることを前提にしたキャラも登場してくるし、かなり自覚している部分があるでしょう。
これは作家的成長だと思います。

正直『1000の小説~』よりこちらの方が三島由紀夫賞に相応しいと思うし、もしかしたらどこかの文学賞レースに引っかかる作品だと思います。
表紙のカッコ良さも含めて、値段相応のコストパフォーマンスはありました。
一方で、自己主張の変化も含めて、良くも悪くも(現時点では判断がつかない)佐藤友哉のターニング・ポイントとなる小説ではないでしょうか。


採点  4.3