『光の帝国~常野物語~』



膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、近い将来を見通すちから―「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。穏やかで知的で、権力への思向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?不思議な優しさと淡い哀しみに満ちた、常野一族をめぐる連作短編集。優しさに満ちた壮大なファンタジーの序章。


ここ何ヶ月かで集中的に恩田さんを読んでいて、中篇以上の作品に較べると短編集は肌に合わないのかな~という感じがしていました。
ということで手に取ったのがこの本。短編集でいうと『象と耳鳴り』を先に読む予定でしたが、同時に借りた本に時間が掛かったりして貸出延長を繰り返し、結局こちらの方が先になってしまいました。

感想はというと、今まで読んだ恩田さんの短編集(『三月~』は短編集というには長いですよね、多分。)の中では一番面白かったですねえ。
全編を通して共通なのは、常野一族というべき特殊な能力を持つ人達と社会の関わりを描いた作品であり、個々が独立した短編でありながら、ところどころでリンクしていくという連作形式。このシンクロのさせ方が力ずくという風ではなく、人と人との繋がりを感じさせてくれたのも好印象の理由かもしれません。
では個々の感想を。

『大きな引き出し』
骨格そのものはよくあるファンタジー。しかしそこに「しまう」という概念を持ってくる事によって、独特の肌触りを持つ作品になりましたね。
能力そのものは特殊ですが、その目覚めは人間の成長を思わせるのも○♪泣きました(笑)。

『二つの茶碗』
主体の男女の出会い方がどこか昔話的なのも、作品の世界観にしっくりきた。
ただ彼らの結びつきがこの作品全体でああいう方向にいくとは思わなかったです。

『達磨山への道』
最初の2編とはうってかわってブラックな後味の作品。また厳密には常野人というより常野という世界の存在を明確にしている。
ここで語られる神隠しにあった女学生達の物語の長編も楽しみな一品。

『オセロゲーム』
収録作の中では一番良く分らなかった作品。どちらかというと『図書館の海』にもあったような予告編の要素が強すぎて、一短編として読んだ場合にはやや唐突すぎると思う。

『手紙』
短編としては独特の匂いがあるものの、文学色が強すぎてやや面白みにはかけるかなと。
ただ連作集の核となる要素を含んでいるので、こういった連作集の中の一編として重要な作品なんだと思う。

『光の帝国』
表題作でもあるこの作品は、あまりに哀しい。ただここに語られる侵略者としての人間はおそらく普遍的な存在であり、そういうった要素が心に響く。
ただ救いを感じさせるラストが作品を読み進めるためのエッセンスとして効いてるなあ。これも泣きました。

『歴史の時間』
イメージの羅列に近い不思議な小説。ただこのイメージが嫌いではなかったのでそこまでは辛くないかな。
予告編的短編ながら、同じ短編集に入っている作品の予告編的要素なのは結構ほほうと思いました。

『草取り』
作品としては、『オセロゲーム』の世界を補足している感じなのかなあ。
ただより方向性が明確な感じがするし、ラストもどこか不思議な清涼感がある。やっぱり短編はそれ一つとして作品となる要素があった方がいいよねと。

『黒い塔』
「歴史の時間」で予告された物語。ただ、まさか「歴史の時間」の女の子がこんな凄いことになるとは。
さらに「二つの茶碗」で示された物語をここでこういう風に広げていくとは想像していなかった分、ひそかに唸ってしまいました。

『国道を降りて…』
まさにエピローグ的な作品ですねえ。いろいろなベクトルを示していたそれまでの短編をうま~く収束してはいると思う。
特にあの2人の再会シーンにはホロリときました。。。


とりあえず、あとがきで予告した作品は全部書いて下さいね~、恩田さん♪(笑)。