『紙魚家崩壊~九つの謎~』



狂気にとらわれていくOLを描いた「溶けていく」、日常の謎を描く「おにぎり、ぎりぎり」、『メフィスト』連載の「新釈おとぎばなし」など、優美なたくらみにみちた「9つの謎」を収録したミステリ短編集。

ビーケーワンより

久しぶりに未読の北村作品を読んだ。僕の中ではかなり上位にランクしている北村さんであるが、どうも最近ピンとこないものが多いのが気になっているところでしたが。
うーん、これほんとに北村さんが書いたの?というぐらい全体として精彩が無く、また収録作品の関連性もやはりらしくないなと。
巻末の索引を読むと、雑誌等に発表された単行本未収録作品を集めたものみたいですが、だからなのでしょうか。しかも、発表された年代ももっとも古いもので90年・・・うーん。

「溶けていく」

現実と空想の境界線がわからなくなっていく女性の悲劇。
いちおうホラー系?しかし、その現実と空想のミックスの仕方があまり上手く処理されてない気がする。読んでて少々辛い。

紙魚家崩壊」
「死と密室」

共通の探偵&助手を配したこの2作品ある意味、清涼院流水以降のミステリ作品のパロディであると同時に、それらの作品に見られる登場人物の記号化に対する北村薫のアンチテーゼの提唱、と解釈できなくもない。できなくもないが、小説としての面白さという意味ではそれらの作品以上に精彩が無い印象を受けた。

「白い朝」

うーん、「時と人」シリーズ系の作品なのかな?しかしあまりに短い上に、余韻を味わえるほどの完成度は有していないと思う。

「サイコロ、コロコロ」

うーん、なんだかセルフパロディな匂いを感じないでもないけど、でも謎というには^^;

「おにぎり、ぎりぎり」

収録作の中ではわりと好きな作品。初期の作品集(特に覆面作家シリーズ)のようなちょっと柔らかなユーモアのある作品。
さすがにこういうのを描かせると上手いと思う。

「蝶」

子供の頃に蝶にした行いの告白。うーん、なぜこの設定なんだろう?それが作品に効果をあたえたとは思えない。

「俺の席」

サイコホラーと思わせておいて、実は・・・・。うーん、悪くは無いがちょっと設定の生かしたかがもったいない気がする。

「新釈おとぎばなし

多分一番楽しめる作品。しかし、小説というよりもおとぎなばしに対する評論に近い。
取り上げられているモチーフは「カチカチ山」だが、物語をお婆さん殺人事件という視点から捉え、うさぎを探偵に配するという着眼点がいい。
むかしばなしに対する講釈や、地域によって内容が違うというむかしばなしの風土性も盛り込んで、読み応えは十分である。
しかし、もっとも面白い作品が小説でないというのは^^;

見方によっては、純粋に謎の部分だけを抽出した作品集とも捉えられなくもないが、その事により北村作品の魅力もまた半減していっていると思う。
北村作品がもっとも輝くのは謎に解明によって描かれる物語のさらなるおもしろさの部分だと思う。
そのもっとも面白い部分に行く前に短編が幕を閉じてしまうのだから・・・・。短編集の名手だけに、この出来は少々残念である。


採点2.6