容疑者Ⅹの献身 著者:東野圭吾

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運命の数式。命がけの純愛が生んだ犯罪
男がどこまで深く女を愛せるのか。どれほど大きな犠牲を払えるのか

~同書、帯文句より~



東野圭吾の最新刊です。デビュー作『放課後』以来、とにかくいろいろな作品で泣かされた東野小説。
今回も、電車で読みながらラストで涙を抑えるのが大変でした。

簡単なストーリーはというと、別れた元夫富樫の暴力に耐えかねた弁当屋の店員花岡靖子とその中学生の娘美里は、自宅を訪れた彼を殺害してしまう。混乱する彼女達に救いの手を差し伸べたのは、隣に住み靖子に行為をよせる高校の数学教師丸岡だった。彼の協力を得て靖子達は事件の隠蔽を試みる。

警察は旧江戸川のほとりで発見された他殺死体を富樫と断定、その元妻である靖子に容疑の目を向けるがそのアリバイを崩せず、事件は進展しない。刑事の一人草薙は、友人である物理学者であり、過去にいくつかの事件の解決に協力してくれた大学の物理学者湯川を訪れる。
湯川は事件の概要を聞き、懐かしい人物と遭遇する事になる。それは大学時代の同窓生であり、将来を嘱望されていた数学者丸岡だった。

今回の小説の軸は、想いを寄せる靖子の為に警察を欺き隠蔽を計画を進める丸岡の心情、その丸岡に頼らなければならない状況ながらその関係の束縛性に不安を持つ靖子の心情、かつての親友でありライバルでもある丸岡と事件を追う草薙との板ばさみになり苦悩する湯川の心情。
この3人のもつれ合う心情が、事件が進む程に複雑に絡み合います。

この丸岡の靖子を思う気持ちはぐっときます。決して見返りを要求しない姿はただただタイトル通りの献身という言葉が相応しい。そして湯川に追い詰められた丸岡が取る行動も、小説的に“本当に好きな人の為にはここまでやるだろうな”と想像できます。

しかし、ラストに仕掛けられた丸岡(もしくは作者)のトリックはまさに驚愕でした。まさに帯の文句に偽り無しというか、とにかくその犠牲的愛情の深さにはただ泣くしかありませんでした。

ここ最近は『白夜行』『幻夜』といった人間の内面の暗さを抉った小説が多かったですが、今回もそれに近いテイストを持っています。ただ、違うのは登場人物達が誰かの為に生きるという事を信じ、完遂しようとする姿の悲しさが、切実に感じられる所ではないでしょうか。

とにかく、間違いなくお勧めです。