『溺れる人魚』(☆2.2)


泳ぐことさえできなくなった元天才水泳選手が自殺し、その「原因」を作った医師が殺害された。しかし不可解なことに、離れた場所であったにもかかわらず、同じ時間に同じ拳銃が使われたというのだ…。書き下ろしミステリー。

l『四季 冬』で疲れた頭を癒す為に読みなれた島田作品の未読モノを。

ふぅ・・・。
伝説の作品(?)『名車交遊録』収録の短編2本、さらに『異邦の騎士』外伝の物語が1本。そして書き下ろしの表題作。
全部で4本収録されていますが、どれもイマイチなんですけど。

たしかこれって御手洗潔最新作っていう触れ込みだったような。
この中で最新作といえる、そして純粋にミステリといえる作品は表題作だけですが、探偵役御手洗じゃないじゃん!!
勘弁してください。
どの短編もまったく読めない作品じゃないんですけどね。ただ最近の傾向の如く、テーマ性が突出しすぎていて小説としての完成度は低くなってるような。
とにかく人称記述が錯綜しまくりなので読んでて辛かったぞ!!

『溺れる人魚』

表題作にして唯一の書き下ろし。
ほぼ同時刻に死亡した二つの死体。同じ拳銃から発射された弾によって死亡したにも関わらず、2つの死体の距離は離れていた。
最初は都市論に関する物語かと思わせておいて、事件の動機はお得意(?)の脳医学。さらにはミステリ。
素材としてはそれぞれ悪くないんですけど、調理の仕方がまずいよなあ。
物語の主眼がどこにおいてあるかが分かりにくいので、とにかく拳銃のトリックの稚拙さが鼻につく。
犯人が完全犯罪をやろうなんて思っちゃいない・・・って言われてもねえ。っていうかあの方法で銃を移動して受け取るのはいくらなんでも。
『斜め屋敷~』のトリックも非現実的という意味ではぶっ飛んでましたが、そこにあった有無を言わせないパワーは無いですね、これ。


『人魚兵器』

『名車交遊録』に収録された作品。とにかくほどんど本筋と関係なかったオープニングのポルシェ話が強烈に印象に残ります(笑)。
まず語り手が誰なの?という疑問が錯綜しますが、ネタとしては人魚の死体らしき物体とナチスドイツが大戦中に計画していた実験をリンクさせた物語。
このネタがどこまで虚実入り混じってるのかわかりませんが、なんとなく島田御大は事実と確信している匂いが文章から感じ取れるのは気のせい?
実験小説としては面白いけど、でも結局なにがやりたかったのか見えてこない。
最後に「キヨシはそういう事が言いたくて~の話を私にしたのだった」と語り手は納得しますが、だから?


『耳の光る児』

ポルシェに始まりポルシェに終わる、『名車交遊録』収録の作品。
でも、ネタは遺伝子に関するミステリ。
事件の真相に関してはああそうなんだ、と言うしかないですがモンゴルに関する歴史の考察は面白かった。
ただそこから真相にいたる過程。御手洗が偉いというより他の学者が馬鹿すぎないか?
なによりそんな事で神を信じてみよう、って気になるなよ!!


『海と毒薬』

これも既出の作品。タイトルが遠藤周作の名作と一緒。
でもそれだけ。『異邦の騎士』とのリンクも上手くいってるとはとても言えないし、なによりこれが書かれた意味がわからない。


ああ、お口直し失敗です。