『死神の精度』(☆4.3)



「死神から見た人間模様」という設定は共通するが、あるときはミステリー、あるときは恋愛小説と、多彩なスタイルの巧妙な物語を楽しむことができる短編集。現在最も注目される作家の1人である著者がアイデアを惜しげもなく披露した小説好きには堪えられない1冊。

ダヴィンチより

まずなによりも、読んでいてすごく面白い。
テーマ云々を語る前にまずは読者に読ませるという事が小説の出発点、そういう意味では相変わらず抜群に上手い作家だと思う。

死神の視点を通し6人の死をまじかに控えた人間模様を描きつつ、生と死についてスタイリィッシュに描く。
こういった内容だと既存の小説の多くはテーマの重さに文章やストーリーが引っ張られ物凄く重たい小説になるか、あるいは感動前提のお涙ストーリーになることが多いがこの作品はその両者の間を絶妙のバランスで通り抜けいていると思う。

なにより、死神は音楽がお好き、しかも雨男というユニークな設定がキャラ立ちというだけにとどまらず、それぞれのストーリーや情景に上手くミックスされており、最終話のラストで死神に晴れを見せる場面はまさに秀逸。
また最初に収録されている表題作「死神の精度」でのラストをああいった形で締めつつも、以降の作品において同じ方式を採らない、表現の幅の広さも本当に見せ方が上手いなと感じた。

全体としては伊坂さんらしくライトな文体である為に、死あるいは生という部分に関する直接的な重さというのはあまり感じられません。
この作品が直木賞を逃した原因の一つにその部分に関する指摘があったそうですが、果たして本当にそうなのでしょうか?僕は必ずしもそうとは思いません。
そう思う理由に、主人公の死神が人間の思考について音楽という部分以外のものをまったく理解できないという設定の妙を感じるからです。
つまりこの死神は「なぜ死にたいのか?」「なぜ生きたいのか?」というのを理解できないということで、これは人間に関しても同じだと思うのです。
普通自殺だけにとどまらず事故や病死にしても、その瞬間その人物が何を考えていたのか、という事に関しての本質はなかなか第3者的立場の人には理解できません。
普通の作家なら死神という視点を通してそれらを語ってしまいがち(それが悪いとはいいません)なところを、あえてそうしない事により生と死の重さを逆にクローズアップしているような気がするんですよ。

それぞれの作品の完成度はともかく、連作短編集として読んだ場合若干物語の起伏という意味では弱点があると思いますし、そういった意味では「重力ピエロ」などに較べると少しは落ちるのかもしれませんが、それはあくまで伊坂作品の中でということ。
すくなくとも、渡辺淳一には絶対こんな小説書けないと思うぞ、ほんと。。。