『砂漠』(☆4.2)



「大学の一年間なんてあっという間だ」入学、一人暮らし、新しい友人、麻雀、合コン…。学生生活を楽しむ五人の大学生が、社会という"砂漠 "に囲まれた"オアシス"で超能力に遭遇し、不穏な犯罪者に翻弄され、まばたきする間に過ぎゆく日々を送っていく。パワーみなぎる、誰も知らない青春小説。


伊坂幸太郎を読むのは実に『魔王』以来ですね~。
『魔王』に関しては、小説のテーマや内容に関しては共感を覚えたもののその語り口に軽さを感じてしまいやや残念でした。
それ以来のこの作品、素直に面白いと思いました。

メインで登場する5人組+彼女のそれぞれの個性が上手く物語を支えていると思いました。
物語のメインともいうべき西嶋、外見の描写はややオタク系を感じさせるもののとにかく不条理までに熱い。時にはムチャクチャな理論で自滅しかかるものの、とにかく不言実行でありつづけようとするキャラクター、一歩間違えるとまったく共感できないと思うんですが要所要所できちんと魅かれる要素を配しているので、ついつい引き込まれてしまいまし、物語の語り部担当の北村がどこかにいそうな大学生のキャラクターで描かれていてその視点から語られることによって西嶋の主張により考えさせらてしまうのではないかと。

タイトルの「砂漠」はおおまかにいうと大学生である彼らを待ち受ける社会の比喩なんだと思いますし、作中でもそれらしいことが語られます。
そこから導き出される主題的なものは、アプローチの方法は違うものの『魔王』のそれと似ているような気がします。っていうか『魔王』の解答編なのか?
では『魔王』とこの作品のどちらが心に響くかというとこちらの作品でした。
『魔王』のようにストレートにテーマを描くよりも、こちらの作品のように軽い感じの物語に見せておいて、実は軽くないといった内容の方が伊坂の文章というか作風に馴染んでいるような気がします。まあ、この辺は伊坂さんの作品をほどんど読んでない僕が語るのもおこがましいですが。

まあ、そういったテーマ性の作品としても読めると同時に大学生を扱った青春小説としても面白く出来上がっていると思いました。
最初に述べたように主人公達のキャラが生き生きとしていると思いますし、それぞれの考え方や性格が物語の伏線としても効いていると思いますしね。
特に鳥井くんはわりとどこでもいそうなクセに最後はかっこよくみせてくれしね~。
西嶋と東堂の交際を報告する場面の会話も普通に読むと恥ずかしいんだけど、それまでの性格付けがキチンとしてるからなのか思わず照れつつもやられた~と思いましたしね。
卒業式で学長が語った、サン=テグジュペリの引用も物語の見せ方の中でなかなか素敵でした♪

いい意味で伊坂さんらしい、深いテーマをさらっと描きつつも考えさせてしまう、なかなかにいい小説だと思います。
なにより自分の大学生活をついつい懐かしく感じちゃったし(笑)。


採点  4.2