十日間の不思議 著者:エラリー・クイーン


'''全身に傷を負い、血まみれの姿でエラリイ・クイーンのもとを訪れた旧友ハワード・ホーン。 ライツヴィルの家を出てから19日間、ハワードの記憶は完全に失われていた。 無意識のうちに殺人を犯していたかもしれない─戦慄したハワードは、エラリイにライツヴィルへの同行を頼んだ。 しかし、エラリイがこの懐かしい街に着くのも待たず、不吉な事件は幕をあけた。 正体不明の男から2万5000ドルでハワードの秘密を買えという脅迫電話がかかってきたのだ!
架空の町ライツヴィルが三たびエラリイの前に投げ出した怪事件の真相は……?

                                   ~同書あらすじより~'''

ライツヴィルを舞台にした第3弾の本書で、エラリィは、自らの探偵としてのアイデンティティを揺るがす事件と遭遇します。このシリーズの常(?)として、事件そのものは決して派手ではありませんし、殺人事件は物語の後半に起こる1件のみです。その分、数少ない登場人物(主要登場人物はエラリィを含めても4人しかいません。)の描写に割かれています。このあたりはまさにシリーズに共通しているものです。その描写が素晴しいからこそ、10日目に露わになる事件の真相の衝撃とエラリィのとった選択に心を撃ちぬかれます。

結局この事件において、エラリィは犯人の仕掛けたトリックの罠にかかり、事件の真相を明らかにすることなく、むしろその悲劇の1端をになってしまいます。
ラスト間際に「探偵」のしての自分を放棄を宣言するエラリィの姿は、のちの作家達に多大なる影響を与えます。
その最たる人物が法月綸太郎であり、彼をしてこの作品の本歌取りともいえる『頼子のために』を書かせしめたのではないでしょうか。

間違いなく推理小説の歴史に残る1作だと思います。お薦めします。ただ、出来ればスペイン岬ぐらまでの国名シリーズとライツヴィルシリーズの前2作を読んでから、本書を手に取ることをお薦めします。