『コンビニなしでは生きられない』(☆3.0) 著者:秋保水菓

イメージ 1

 大学生活に馴染めず中退した19歳の白秋。彼にとって唯一の居場所はバイト先のコンビニだった。そこに研修でやってきた女子高校生の黒葉深咲。
 強盗、繰り返しレジに並ぶ客、売り場から消えた少女。店内でひとたび事件が起これば、深咲は目を輝かせて、どんどん首を突っ込んでいく。
 彼女の暴走に翻弄されながら、謎を解く教育係の白秋。二人の究明は店の誰もが口を閉ざす過去の盗難事件へ。元店員が残した一枚のプリントが導く衝撃の真実とは?
 第56回メフィスト賞受賞作。

Amazonより

 コンビニが舞台、そして登場人物の設定からして、日常の謎系連作短編集かと思ってたけど、実際に読んでみて章の区切り方とか、物語の展開とかから長編だよね、と思います。

 それぞれの章立ての中で、コンビニから出ていないにも関わらず姿を消した強盗、何回もっていうレベルじゃなく繰り返しレジに並ぶ女性、売り場から姿を消した少女に、レジカウンターから消えたお札、といった謎が並びます。

 全体として一言でいうと、色々惜しい。
 それぞれの章で提示される謎、素材の魅せ方はワクワクさせてくれます。不可能状況だったり、パズラー系だったりメニューのバラエティにも気配りを感じます。ただ、肝心の調理、盛り付け方が今一歩でしょうか。

 どの謎も、なぜ登場事物がそういった行動を取ったのかというところの解明はそれなりにされるですが、肝心の理由のところで説得力のところが弱い感じ。
 いわゆる大ネタ系ミステリに比べると、日常の謎系は当然インパクトに欠ける分、動機であったりというところが読み応えに影響してくると思うのですが、その部分の小説としてのリアリティがあと一歩。

 舞台となるコンビニの定員達にも、あと一歩感が。
 語り手である白秋やその相棒となる新人アルバイトの黒葉にせよ、 時折見せる黒葉の口調が狙いすぎなもののオーソドックスな設定そのものは悪くない。けれど、掘り下げが足りないので、物語をすすめる駒以上になりきれてません。

 そういった少しずつ足りない所が終盤の展開にとって大事なところだったりするので、おそらく作者がやりたかった部分について、読者は登場人物の感情に違和感を覚えてしまう、腑に落ちかねるのではないでしょうか。
 なので、タイトルにも掲げられたコンビニ愛(?)がいまいち伝わらないのもそこが原因かなと思います。

 登場人物の配置、物語のススメ方、ラストに思いもよらぬ方向に展開するストーリー。どれも決して独創性があるという訳ではなく、むしろ意外なくらいオーソドックス。ミステリ小説の魅せ方そのものは文章も含めてまだまだ力不足は否めません。ただ、抑えるべきところは抑えるところはセンスを感じます。
 素材の調理の仕方を経験していけば、これから面白いミステリを読ませてくれるんじゃないかと密かに思っております、はい。


採点  ☆3.0