『福家警部補の考察』(☆3.8) 著者:大倉崇裕

イメージ 1

 地位と愛情を天秤にかける医師の誤算(「是枝哲の敗北」)、夫の企みを察知し機先を制する料理好きな妻(「上品な魔女」)、身を挺して師匠の名誉を守ろうとするバーテンダー(「安息の場所」)、数年越しの計画で恋人の仇を討つ証券マン(「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」)――犯行に至るさまざまな事情と慮外の齟齬。透徹した眼力で犯人の思惑を見抜くシリーズ最新刊。

Amazonより

 国内での倒叙形式として刑事コロンボへのオマージュたっぷりのシリーズといえば、映像では古畑任三郎、小説ではこの福家警部補シリーズが代表だと思う。シリーズ5作目になるけれど、相変わらずの安定感。
 ミスともいえない些細な疑問点から犯人を追い詰めていく手腕、バラエティに富んだ犯人像は、本家コロンボにも負けないと思います。
 遊び心という点では、巻末の謝辞もよく見ると、おおっと思えます。

「是枝哲の敗北」
 自らの地位を守るために愛人を殺すという筋書きは、コロンボだけでなく倒叙物短編の王道設定。アリバイ作りの中でちょっと強引な移動方法ではあるけれど、福家警部補が最初に疑問を抱く事になるタバコのくだりや、犯人逮捕に至る物証の散りばめ方がストーリーの中でさらっと表現されているのが上手い。なにより最後に明らかになる被害者の情念と、最後の福井絵警部補のセリフがしびれますね。

「上品な魔女」
 シリーズの中でもかなり異色な犯人像。福家の尋問よりも自分の心尽くしを無碍にされる方に腹を立てるのは読みながら惹きつけられます。悪意に対して無邪気な点は、コロンボの「忘れられたスター」の犯人に通じる所があるのかもしれませんが、あちらが鑑賞後ほろ苦さを味わえるのに対して、こっちの方は犯人の身勝手な無邪気さに同情できません。これが古畑とかになるあのラストの雰囲気は変わるんだろうな〜。

「安息の場所」
 お酒を愛するバーテンダーの犯罪。自分のためではなくこの世を去った師匠の為にという犯人の動機は切ないですね。殺人現場で犯人が取った行動の矛盾、作品の設定がその理由に活かされている(作中にもヒントは散りばめられてます)のもコロンボっぽいです。コロンボの傑作「別れのワイン」にも通じる後味のほろ苦さ。ただ、そのあとにあるエピソードを足したのは、好みが分かれそうです。

「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行」
 せっかくの殺人計画も、たまたま福家警部補と出会ったのが運の尽き。捜査現場に居るわけでもないのに犯人に気づくとはさすがです。犯人を追い詰めるために強引な罠を仕掛けるところ、ちょっと強引ではありますが、コロンボへのオマージュとしてはありでしょうね。

 さて、とにかく安定の短編集。そろそろネタも溜まってきたのでは、ということでまたいつかドラマでみたいですね。これまで福家警部補は永作博美さんと檀れいさんが演じてきました。どっちも悪くないのですが、個人的にはもっと違う役者さんでみたいなーと思います。
 みなさんは一体誰が似合うと思いますか。
  



採点  ☆3.8