『豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件』(☆3.7) 著者:倉知淳

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空前絶後の密室殺人。
真夜中の実験室で起きた
世にも奇妙な事件の真相は――!? 
ユーモア&本格満載。
猫丸先輩シリーズ最新作収録のミステリ・バラエティ! 

戦争末期、帝國陸軍の研究所で、若い兵士が倒れていた。
屍体の周りの床には、なぜか豆腐の欠片が散らばっていた。
どう見ても、兵士は豆腐の角に頭をぶつけて死んだ様にしか見えなかったが――?
驚天動地&前代未聞&空前絶後の密室ミステリの真相は!? 
倉知淳を知るうえで格好の一冊。
こういう作品集を読みたかったのだ。
――村上貴史(文芸評論家)


Amazonより

 かつては寡作すぎる作家さんの一人でしたが、最近はわりと定期的に作品を発表してくれて嬉しいですね。
 作品としては本格ミステリというよりはストーリーそのものに捻りを加えたものも多く、個人的にはそちらのタイプの作品の方が出来が良いように思いました。ただ、どっちにしても作品の安定感は抜群の作家さんだと思うので、これからもこのペース(もう少しぐらい遅くても、昔からしたら大丈夫)で書いてもらうと嬉しいですね〜。

『変奏曲・ABCの殺人』

「人を殺してみたい、相手など誰でもいい。理由も、特にない。ただ、殺してみたい。気分がすっきりするかもしれない。ただそれだけだ。」
 不穏な書き出しで始まるこの短編。タイトル通りクリスティの「ABC殺人事件」的な内容だけれど、どちらかというと某有名ミステリの方のネタに近いような気がします。手法としては倒叙物になるのかもしれなけれど、とりあえず殺人を考えちゃう語り手が基本どうしようもない。彼の考えた殺人計画が予想外の方に転がる展開はシニカル、それによって語り手の立場が変わっていくラストのオチはブラックだなあ。冒頭の語りも活きる、いい意味で後味が悪い。


『社内偏愛』

 人事権をAIが握るSF的世界。うーむ、そんなの嫌だなぁ、と思いつついきなり平社員への専務からのコーヒー提供に目が点。

 それにしても、AIに人事権を委ねることになった発想がなんかリアル。

・若者「上司は無能ばかりだ。年が上だというだけで・・・」
→「こんなんだったら、コンピュータが上司の方がどれだけマシだろうか」
・管理職「どいつもこいつも無能ばかりだ。使えない部下を使って・・・そんな連中の責任負わされて尻拭いされるこっちの身にもなってみやがれ」
→「部下の責任取るのなんてもう御免だ、コンピュータにでも任せてしまいたい」
・経営者「あー、社員に無駄な給料払いたくねぇ」
→「あー、コンピュータなら人件費かかんねえよな」

 なんとなく正論っぽいですな。ただのコンピュータだったら些細なミスさえ記憶されちゃうのもあるので、とりあえずゆらぎ機能付。それが一人の社員の運命に大きな影響を及ぼして、さらにはその周囲にも迷惑かけまくる。結局その責任(?)は一体だれが?ラストのオチもブルーだなぁ^^;;


『薬味と甘味の殺人現場』

 発見されたパティシエ志望の女性の死体。口の中にはネギ。枕元にはケーキ3つ。警察も悩ますヘンテコな死体の状況。犯人らしき人物は早々に浮かび上がるけど、ある刑事が語る動機、あくまでも想像の域ですが、なかなかにカオス。本当の答えが出てこないだけに、本当にその真相がカオスなのか分からないところがまた良いですな。

「夜を見る猫」

 色々あって田舎の祖母のところに来た語り手の女性。祖母の家で飼っている猫が夜に見せる不思議な姿が、思わぬ展開を呼びます。
 途中からだんだんと予想はつくんですが、そこに至る想像の過程が丁寧に描かれているので、あまり無理な論理の飛躍が無い所が良いですね。
 なにより、本作の真の主役、でろんと寝っ転がる猫のミーコちゃんが可愛い過ぎですな。


「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」

 昭和19年、太平洋戦争渦中の日本にある陸軍特殊科学研究所で発見された、まるで豆腐で殴られたような死体。一体事件の真相は何処に。
 ヘンテコな死体の状況は『薬味と〜』と一緒ですが、事件の真相に関する真相はあれ以上にカオスというか非現実的な発想。けれどその真相に対する理由付けと、そこから通して見えるものがちゃんと時代を踏んでいて、好みはともかく作品の出来としては表題作に相応しいですね。

「猫丸先輩の出張」

 極秘に開発された新素材の受け取り業務に研究所を訪れた浜岡くん。そこで起きた傷害事件。逃げ場の無いはずの場所から消えた犯人、いったいどこへ?
 ファン待望の猫丸先輩登場。研究所のマスコットねこめろん君の着ぐるみで登場する姿は、「ああ猫丸先輩だ〜」と嬉しくなります。ただ短編集の出来としては、やっぱりその結論しかないかなぁ、、というところだったのでそこがちょっと物足りなかったかなぁ。




採点  ☆3.7