『ミステリ国の人々』(☆4.2)  著者:有栖川有栖

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 ミステリ小説という「国」には作家が造形した様々な「人々」が住んでいる。誰もが知る名探偵、事件の鍵を握る意外な人物、憎めない脇役、不可解だけれど目が離せない人……そんな人たちを通して、ミステリを読むおもしろさが何倍にも膨らむ「ツボ」を刺激してくれる、ミステリファン垂涎、読まず嫌いの小説ファンには目からウロコのエッセイ集。


Amazonより

 有栖川さんは小説も面白いけど、エッセイも面白い。この本は氏が日経新聞に一年間連載したエッセイを纏めたもの。タイトルの<ミステリ国>の意味は<推理小説の作品世界>、故・桂枝雀師匠が高座で使っていた、「これがまた、いかにも落語会の住人でして〜」という口癖(「現実の世界にはこんな人間はめったにいないけれど、落語の中でよくお目にかかる人物」という意だそうな)から取っているとのこと。

 確かに落語にはいかにもな人物が登場して予想に違わぬ行動で笑いや騒動を起してくれますが、有栖川さんが前書きで言っている通り、ミステリはやっぱりオチ(真相)を隠さなきゃいけないので、<いかにも犯人><いかにも犯人らしいが、実はも無実の関係者>が、そのイメージのまま活躍するわけにはいきません。

 それでも<いかにも>はあるんだ、<ああ、自分は今、ミステリを読んでいるんだな。現実を離れてその世界に遊んでいるんだ>と思わせる登場人物がいるんだ!!と教えてくれます。

 そして最初に登場するのは、なんとヴァン・ダイン!!しかも登場人物の方!!書き出しで書かれているように、こういう振りが来たらトップバッターはホームズだろ!!って思いますが、よーく考えたら、有栖川さんもそうですが、著者と同名の登場人物が地味に語り手を勤めちゃっているのは、ミステリでよくある光景なのかも。古典と呼ばれる時代から、現代まで繋がるパターンができてるのね、と教えてくれます。私もヴァン・ダインは好きですが、作中のヴァン・ダイン

 そんなヴァン・ダインに続いては、やっぱりホームズ。天才肌の名探偵。超人的な推理力と時折見せるアンチモラルな一面。そんなアンバランスも魅力だけれども、有栖川さんが説明してくるれるホームズの魅力は、ちゃんとその凄さを推理として説明してくれる。野球の魔球や、サッカーマンガの必殺シュート、デューク東郷の狙撃力は問答無用で「凄いなぁ」で終わってしまうけれども、ホームズのようにミステリで推理によりその凄さを作者が証明しないといけない。いやぁ、、深い!!

 と、そんなこんなで有名どころ、例えば金田一耕助やエラリィ・クイーン、ギデオン・フェル博士がいるかと思えば、仁木兄妹や松下研三(神津恭介ではなく)、亜愛一郎と三角形の顔をした老婦人(泡坂妻夫さんの亜愛一郎シリーズの短編にすべて登場する女性)といった渋い面々、さらには蠅男(海野十三が生んだ変態的犯人)やユーニス・パーチマン(「ロウフィールド館の惨劇」の犯人←ネタバレではない)といった、何故あなた???といった面々もいる。蠅男なんて名前もそうだけど、ミステリにそうそういるようなキャラクターじゃないのに何故選ばれているのか、その理由は実際に読んで確認してみてください。

 個人的に一番印象に残ったのは、明智文代女史。言わずと知れた名探偵・明智小五郎夫人。古今東西の名探偵は独身であることが多い中で、その座を勝ち取った文代さん。結婚前、新婚時代の活躍は目覚ましい(特に「魔術師」での出会いや、「人間豹」のアレとか)のですが、その後パタンと出番が無くなってしまいます。そして有栖川さんが妄想するその理由がもう素敵すぎて^^
 知ってるキャラよりも知らないキャラ(あるいは忘れてるキャラ)もいっぱいいるし、可能な限り現在でも入手あるいは電子書籍で読める作品からセレクトしているので、ガイドブックとしてもかなり有効。
 そして、後書きにも書かれてるようにデュパンやブラウン神父、神津恭介にペリー・メイスン、あとは古野まほろとか、まだまだ触れてくれるんじゃないかってキャラがたくさんあるので、連載でも描き下ろしでもいいので、第二弾期待してます。


採点  ☆4.2