『曲った蝶番』(☆4.0) 著者:ジョン・ディクスン・カー

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 1年前、25年ぶりにアメリカから帰国し、爵位と地所を継いだジョン・ファーンリー卿は偽者であり、自分こそが正当な相続人であると主張する男が現れた。渡米の際にタイタニック号の船上で入れ替わったのだと言う。あの沈没の夜に―。
 やがて、決定的な証拠によって事が決しようとした矢先に、不可解極まりない事件が発生した!巨匠カーによるフェル博士登場の逸品、新訳版。

Amazon紹介より

 年末に入り、いよいよ今年度のベストテンも発表され始めてますが、相変わらず読書ペースが上がらないわ、季節の変わり目のお約束の気管支炎が今年も発症。そろそろ本気で禁煙しないとな~、と思う日々。

 そんな中で読んだのが、またカーの新訳。探偵役はフェル博士。個人的にはH・M卿やバンコランよりは相性がいいような気がしてる・・・と言っても、そんなにどれも読んでないんですけどね。 一時期カーを読んでた時は、ほとんど新刊では手に入らない作品が多く、これもその中の一つ。新訳ありがたや。

 25年ぶりに地元に戻って来た地元の名士ファーンリーやその妻、友人たちを襲った入れ替わり疑惑。その部隊がタイタニックというのも、なんだかハッタリっぽくてカーらしい。とはいっても、序盤は2人の後継者候補の審議を巡っての駆け引きが中心となって、カーらしい怪奇風味はほとんど無い。じゃあ、面白くないかというとそうでもなく、一癖も二癖もありそうな登場人物同士の駆け引きが俗っぽく、キャラの性格が読み手にもよく伝わってくる。旧訳を読んでないから分からないですけど、訳文も癖が無くてすごく読みやすい。『皇帝のかぎ煙草入れ』と同じような印象。2人の後継者が直接対決を行う場面も、それぞれどちらもホンモノっぽさを漂わせる展開に先が読めないです。

 そして、いよいよどちらが真の後継者か明らかになるだろう直前に起きた不可解な状況での候補者一人の死。自殺なのか、他殺なのか。他殺なら、犯人はいったいどんな手段を用いたのか。
自殺か他殺か、といいながら状況的には絶対殺人だろうって感じですけど、それでもカーだから油断は出来ない。さらにはそこの魔女の儀式や、それに纏わる一年前の村の住人の死、邸宅の屋根裏部屋にひっそりと置かれている、半分壊れているような曰くつきの自動人形(表紙の絵のやつですね)などなど、急激にいつものカーっぽい様相になってきます。

 全編通して2つの流れ、いつものカーの怪奇趣味と、二人の候補人の真偽を巡る心理描写のバランスが秀逸で、それぞれがクライマックで上手く結びついて、ちょっとした描写が実は事件の重要なヒントになっていたりして、プロットとしての完成度はすごく高いと思います。

 そして、殺人事件の真相というか、トリックなんですが・・・ううむ、なんじゃこりゃと^^;;とにかく驚天動地のトリックと言うか、展開が待ってて、こんなもん解けるわけなかろうよ!!途中でフェル博士以外の人物の推理のほうが心理的にも物理的も現実的に納得できる。そんなプロットを投げ捨てて、そっちにいくか!!2段構えの真相のどちらも一歩間違えるとバカミスというか、密室トリック(?)としてそんなんありかよ!!とツッコミましたよ^^;;ただ、それでもその真相を支える犯人の心理描写がそんな弱点(?)を補強して、まぁ・・それならありなのかなぁ・・・ってところまで持ってきてるのが、この作品の最も素晴らしいところなのかもしれないですね。

 カーはそんなに読んでないですけど、一発トリックの凄さが肩透かしな分、小説家としてのカーの技量が楽しめるという意味では、『皇帝のかぎ煙草入れ』にも繋がるカーの魅力の一面が味わえる読みやすい作品だったです。でも、万人に薦められるかどうか悩ましいなぁ・・・。
 



採点  ☆4.0