『怪談のテープ起こし』(☆4.0)  著者:三津田信三

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まずはあらすじ。

恐怖は全て、日常にひそむ。

「自殺する間際に、家族や友人や世間に向けて、カセットテープにメッセージを吹き込む人が、たまにいる。それを集めて原稿に起こせればと、俺は考えている」。

 作家になる前の編集者時代、三津田信三は、ライターの吉柳から面白い企画を提案された。ところが突然、吉柳は失踪し、三津田のもとに三人分のテープ起こし原稿が届く。死ぬ間際の人間の声が聞こえる――<死人のテープ起こし>。
自殺する者は何を語るのか。老人の、夢とも現実ともつかぬ不気味な昔話の真相は。怪女「黄雨女」とは一体――。
 全六編、戦慄のテープ起こしがいま、始まる。

 何冊か溜まっていた三津田作品をこの旅行に読んでおこうと思って持っていったもう一冊がこの実話風連作短編集。

 ある作家(三津田信三)の元に寄せられた企画は、どこにでもある実話体験談を元にした不定期連載だった。普通ならただそれだけの筈だったが、連載中、担当編集者の身にも不思議な現象が起き始める。最初の「死人のテープ起こし」の設定のインパクトが強いけれど、2話目以降はいわゆる実話怪談風のストーリーで、「死人の~」の設定とは違います。全部同じ系統でいったものも読みたかったな~、とちょっとは思うのですが、そうはいっても他の短編も中々の出来栄えだと思います。

 この手の怪談ホラー系は、怖がれるかどうかは読者の趣味・趣向の要素がどうしても出てくるとは思うんですけど、その部分も加味しても個人的にはいい意味でいや~な作品ばっかりだなと。特に今回はある特殊な状況で読んでたせいか、正直ちょっと怖かったです(笑)

 序章、幕間が間に挟まり企画進行中の現実の世界で起きる不可解な出来事が紹介され、終章でそれまでの不思議な怪異、そして紹介された6つの短編の共通点が明らかになり、現実と空想のボーダーラインが歪んでくるわけですが、うん、この部分については別にその趣向無くてもいいなじゃないかと思うぐらい薄いというか、正直肩透かしに感じました。無理にリンクさせなくても、もっといやーな感じに出来たような気がするんですけどね。

 ただ、その点を差し引いても、怪談系ホラー短編集としては粒ぞろいだと思うので、読んで損はないかなと思います。
 それでは各短編の感想を。
「死人のテープ起こし」
 遺書代わりに自殺者の言葉が収録された音声を聞くうちに、という侵食系ホラーの内容。本当にただそれだけの設定だし、オチの展開も見え見えなんですけど、台詞作りが巧いのか、気持ち悪いです。

「留守番の夜」
 ある女子大生がサークルのOGに頼まれた留守番先の家で巻き込まれた怪異譚。他の短編もそうだけれども、決して目新しいストーリーではないものの、物語が終わっても残る謎の味わいも含めて、いや~な短編。

「集まった4人」
 一人の友人を介して登山に集まった4人。肝心の友人が来れないままで始まった登山で、彼らの身に降り掛かったのは・・。
 山に伝わる怪異と現実の登山が徐々にリンクしていく。こういった現実と虚構の境界線が曖昧になっていくのが、いかにも怪談らしぃなあ~。

「屍と寝るな」
 同窓会で再会した友人の母と同じ病室に入院している老人が呟く言葉の意味とは・・。
 今回収録された短編の中ではある意味もっとも理論的に怪異を分析してる(でも、正解かどうかは分からないけど)。個人的には一番怖い・・・というより一番いや~な短編だった。

「黄雨女」
 ある大学生の前に現れる黄色のレインコートを着込んだ謎の女の正体は・・・。これまた現代王道風な作品。なぜ彼の前に現れたのか、というのがまったくもって謎のなのが嫌だなぁ・冒頭の話との関連性がいまいちピンとこないが、落語の枕的扱いなのかなぁ。

「すれちがうもの」
 出勤途中のOLが偶然踏切のところで目撃した黒い男。その日からすれ違うたびに自宅に近づいてきているようで・・・。
 冒頭のふりのところで、昔読んだ阿刀田高の短編を思い出しけど、その後の展開は違ってた。物語の後味としては、「屍と寝るな」と同じぐらいいや~な気持ちになった。


 とりあえず、どれもこわーーい♪というより、イヤ~~~~な感じの話です。こういったのが好みの人はしっかり楽しめるかなぁ~。



採点  ☆4.0