『腕貫探偵、残業中』(☆3.5)



まずはあらすじ。

悩める市民の相談ごとが次々に持ち込まれる「市民サーヴィス課臨時出張所」の職員にして名探偵!?黒い腕貫を嵌めたその男の巧みな誘い言葉に、ついつい気がかりな悩みごとを話してしまうと…、ありゃりゃ、いつしか難題解決へ!軽妙な筆致でユーモラスに描く連作ミステリ六編。

yahoo紹介より

新刊がでてるのを知ってるので、こ~いうことをいうとちょっとピント外れかもしれませんが・・・
まさか帰ってくるとは^^;;;
一作目では最後まで解決しないというキャラクターで、微妙な影の薄さがいい味になってた分、シリーズ化には向いてないかなと思ったので・・・
いや、しかしガラッと変わりましたな、腕貫さん。
1作目の設定を残業編という変化球でシリーズモノらしいキャラにしたてあげるとは。
今回はガンガン刑事さんに電話するは彼女(?)ができたりと、人間らしい一面も。。。

好みとしては前作より上かなぁ。
ロジック的には相変わらず若干の飛躍があるのかなぁという気がせんでもないのですが、一つ一つのストーリーの味付けは前作より高いんじゃないかなと。
これはやっぱり公務員という呪縛をとっぱらうことによって、物語を膨らませやすくなったからなのかもしんないですね。
1話目から喫茶店強盗の話で読者に「今回はちょっと違うのね」というのをわかりやすく見せてるし。
でも、ここに登場するユリエさん、このあとの話と比べるとかなりキャラクターが違う気がするのは私のせい?
そのせいか、結構言動とかツボだし、わかりやすいキャラなのにいまいちイメージしにくいんですよね~。

おっと話がそれました。
それぞれの内容をみると、いかにも西澤さんらしい後味の悪さというか、登場人物の普通なんだけどちょっと壊れてる(?)的なところが全編に漂ってる気がしますね。
最初の作品は、強盗中の最後の場面の行動がいくらなんでも・・・ぐらいな内容だったけれども、それ以降はどこかやるせなさを残す作品ばかり。
「雪のなかの、ひとりとふたり」のラストのユリエの干渉はわからんでもないし(そもそも事件自体がやるせない)、「夢の通い路」もそりゃ忘れたくもなるよな~という語り部の心境や今の時代こーいう事があってもおかしくないのかなと妙に納得。

しかし、らしさが出てるっていう意味では「青い空が落ちる」と「流血ロミオ」の後味の悪さが一歩抜けてる。
「青い~」は、心理サスペンスとしてはそこまで目新しさはないだろうけど、登場人物のみたい風景の理解しがたい思考が、冒頭と最後に挿入されてる独白に薄ら寒さを加えてて・・・こういう作品は好きですね。「流血ロミオ」も、決して目新しいことではなく普通に現実でも起きそうな事件の構造と感じられました。実際ここまでじゃなくともキーポイントとなるようなことは新聞やテレビでお目にかからなくもない。事件隠蔽の稚拙さとその原因となる無邪気な欲望のギャップが陰惨さをかもし出してます。いやほんと救いがない。。
ついでにいえばこの作品で登場する江梨子が最終話でみせる、ユリエへの熱い視線って^^;;

冒頭の事件で食欲をそそらせて、中盤の盛り込み方、置いて最後に終わってみればドタバタ・コメディのような後味を醸し出す作品を提供してのフルコース、手堅い料理構成の短編集。
そこにいたる発想の飛躍こそトンデモだけれども、意外とおきそうな事件という感じのことが多いこのシリーズ。
次は「出張中」ですかね~。


採点  ☆3.5



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