『不気味で素朴な囲われた世界 』(☆4.0)


まずはあらすじ。

退屈な"日常"はいらない。 欲しいのは、"異常"――。
時計塔が修理されない上総園学園の2学期の音楽室。そこから始まった病院坂迷路と串中弔士の関係。
歪な均衡を保つ学園の奇人三人衆、串中小串、童野黒理、崖村牢弥。
そして起こってしまった殺人事件。迷路と弔士による探偵ごっこの犯人捜しが始まり、崩れたバランスがさらに崩れていく……。
これぞ世界に囲われた「きみとぼく」のための本格ミステリamazonより

国家試験に邁進・・・といいながら、行き帰りの電車の中で更新の為にこっそりと本を読み続けておりました(笑)。
ということで、復活(?)第1弾はお気に入りの西尾維新

前作『きみとぼくの壊れた世界』では、世界観的には嫌いじゃなかったのだけれど、若干(?)個性的な文体に読むのに苦労した記憶がありましたが。

で、今回はノベルズ版とハードカバー版の2種類で発売。
図書館から回ってきたのはハードカバーの方。

読みにくさとしては前作ほどではなかったな~。
まあ、なんとなくオーソドックスな西尾維新の文体だからなのか?
でも、途中まではそれまでの西尾作品ほどの妙な深みを感じさせられず、むしろ薄っぺらい感じ。
最初の殺人のトリックで、言葉だけじゃ理解できないというネタ(?)には苦笑しつつも、同感を覚えました。
いやあ、図版があるというのはこんな便利なことなのか・・・

それはともかく、ミステリとしては中盤過ぎるまでその薄っぺらさが続く。
正直見え見えの部分もあり、JDCトリビュートほど本格にインしているわけでもなく、かといって「戯言」シリーズや「化物語」ほどに突き抜けてるわけでもなく、ウムム。。。
だって第2の殺人が起きた時点でもうバレバレやんと。。。

しかしながら、この小説のいかにして殺人を犯したかというトリック的なところではなく、なぜ殺人を犯したのかという動機の部分が重要なんだと思いました。
いやあ、この動機がなかなかにふるってる。
表だけなぞってみると、薄っぺらいというか小説的な非リアリズムな構造を持ってるものの、そこに西尾流エッセンスが加わると、歪なリアリティが溢れてくる。
ここに至るまでの薄っぺらさはこのためにあったのか、と正直感嘆。
西尾氏の小説家としての技量。そしてミステリにおける動機という部分の重要性を改めて感じさせられた。
冴さんが本書の書評で、
「物語の文脈として、この動機はもの凄いリアルさをもってアリなのである。」
と書かれていたが、この意見に諸手を挙げて、賛成。
殺人を肯定するわけではないのだが、それでも、今の時代という部分を見据えた西尾流の立派な青春ミステリだと思う。

で、やはり冴さんの記事の余談について。
作者の後書きは、どうもハードカバー版とノベルズ版では違っており、ご指摘のコメントは発見できなかったのだけれども、こっそり出ていたある登場人物だが、やっぱりラストに出てきたあの人しか思い当たらないのだけれどどうなんだろう。



採点  4.0