『密室殺人ゲーム王手飛車取り』(☆3.3)


まずはあらすじ。

"頭狂人""044APD""aXe""ザンギャ君""伴道全教授"。
奇妙なニックネームをもつ5人がインターネット上で殺人推理ゲームの出題をしあっている。
密室、アリバイ崩し、ダイイングメッセージ、犯人当てなどなど。
ただし、ここで語られる殺人はすべて、現実に発生していた。出題者の手で実行ずみなのである…。
茫然自失のラストまでページをめくる手がとまらない、歌野本格の粋。

amazonより

新年から2冊更新。
勉強してるのか?と突っ込まれそうですが、これでも1日500問ぐらい問題を解いてるんですよ^^(正解率は聞かないで~)

ということで、ランキング本ではやはり入ってきたこの本。
歌野さんの場合、合う合わないが本によって極端に違ってしまうのである意味楽しみな作家。
前回の記事が2006年4月の『魔王城殺人事件』だから、えらい空いてるな~^^;;

で、本書。
とにかくその奇抜な設定が目を惹く。
インターネットという武器を使い、徹底的にお遊びを可能にする設定。そこにはモラルも感情も無く、あるのはただ推理ゲームを楽しむために人を殺すということだけ。
たしかに不謹慎な設定ではある。この点に関しては、べるさんiizuka師匠も触れておられたが、確かにどうなんだという部分はある。

ただ全体の構成としては徹底的にリアリティは排除することよって、トリックを際立たせるという作者の狙いも透けてみる分、そこまで憤りは感じなかった。
むしろ、これはこれでありなんだろうなと。ある意味、米澤さんの『インシテミル』よりイン(淫)した作品という意味で、いかにも歌野さんっぽい。
これが石持さんなんかになると、リアリティの中に無自覚的なモラルハザードともいえるブラックボックス(©小森健太郎)をつくってしまい、『水の迷宮』『セリヌンティウスの舟』のようにどこか不快なものに仕上がったりするんではないかと思う。

閑話休題
全体としてのトリックは、質的にはややブレを感じるものの、この非リアリティな世界を活かしているという意味ではどれもユニークで外してはないと思う。
特に3重密室のトリックなんかはもはやなんじゃそりゃ~で爆笑。こんなトンデモトリックにもちゃんと伏線を張ってる歌野さんはさすがだ。
そして頭狂人の殺人トリック。この設定におけるある意味数少ないルールを自ら越えるトリックというのは、作品の構成を逆手にとっていて買いだろう。
ただそれらが、作品としての面白さに繋がっているかというとやや物足りなさも残る。
こういうのを読むと、どうも自分はトリック重視の読み手ではないのかもと思ってしまったり^^;;

そして問題のラスト。
このラストに関しては、否定的な意見が多い。そして私自身もこれが作品として聞いているかというと、やっぱり蛇足的なだと思ってしまう。
ただこのまったく将棋と関係無い内容で、なぜタイトルが「密室殺人ゲーム王手飛車取り」なのかというのを考えてみると、作者の狙いが透けて見える気がせんでもない。
そういった意味でもは、小説内のいろいろなところで効いてくるナカナカに捻ったタイトルセンスで面白いと思う。
まあ、そうはいってもあのラストにするんであれば、もう少しそこに至る伏線を張らないと生きてこない。だから蛇足的に感じるのではないだろうか。

さらに、続編が発表された今となっては余計せっかくのタイトルがぼやける気がせんでもないな~。


採点  3.3