『女王国の城』(☆3.7)


まずはあらすじ。

舞台は、急成長の途上にある宗教団体"人類協会"の聖地、神倉。大学に顔を見せない部長を案じて、推理小説研究会の後輩アリスは江神二郎の下宿を訪れる。
室内には神倉へ向かったと思しき痕跡。様子を見に行こうと考えたアリスにマリアが、そして就職活動中の望月、織田も同調、四人はレンタカーを駆って木曾路をひた走る。
"城"と呼ばれる総本部で江神の安否は確認したものの、思いがけず殺人事件に直面。
外界との接触を阻まれ囚われの身となった一行は決死の脱出と真相究明を試みるが、その間にも事件は続発し…。
江神シリーズ待望の書き下ろし第四長編。

amazonより

やっと読んだぞ、学生アリス第4弾。
実をいうと発売日直後には購入したのだ。しかしパラパラ捲るととにかく長そう。なにしろ2段組500ページだし^^;;
ついつい躊躇していたのだ。
そういいつつ、「はしたなき」第3弾を読んで、べるさんにダメだしされたのは私の不徳の致すところ。
でもアッチもおもしろかったんだよ^^;;;

なにしろず~っと予告はされていたにも関わらず、前作『双頭の悪魔』から実に15年7ヶ月。
中予告された内容から察するに、作家アリスの最新作『乱鴉の島』は、実はコッチのシリーズの第4弾のプロットだったのでは勘繰ったり(笑)。
でもまあ、生きてるうちに最新作が読めたのはよかったよかった。
とにかくこのシリーズにはそれぐらい思い出があるのだ。。。
ということで、図書館予約本が一段落したところで、ワクワクしつつ手に取った。

正直なところ、その長さに躊躇してしまった事に関しては半分間違いではなかった。
とにかく長い。物語の随所で氾濫するUFOや宗教の薀蓄の数々に辟易する部分も少なからずあった気がする。
もちろんその中には巧妙な伏線も隠れている訳だから、全てが不必要なだというつもりはまったくない。
「城」の中で起きる殺人の数々の伏線に関しては、限りなくフェアに書かれているし、このあたりはさすが有栖川有栖
自慢ではないが(でもちょっと自慢)、○○がどうやって「城」に持ち込まれたか、そして犯人と動機に関してはほぼ完璧に推理できた。
ただ11年前の密室トリックに関しては分からなかったし、なぜ教団が警察に連絡しないのかという理由に関してはさっぱりだった。
言い訳させてもらうなら、前者に関してはフェアに書かれてはいるもののその可能性を採用するには躊躇するものだと個人的には思うし(私はもっと違うトリックを考えましたが、こっちはもっとアンフェアだった。。。)、後者に関していえば、これを予想するのは限りなく無理だろうと思う。いくらなんでもそれを想像する江神さんは超人すぎると思うぞ(←このあたりは冴さんと同意見だったはず)。

まあ、ケチをつけた感じだが、ミステリとしてはさすがの出来栄えだと思う。
決して飛びぬけた傑作だと思わないが、ミステリの手本としては上質の部類に入るだろうと思う。
ただ、iizuka師匠もおっしゃってたように、もう少し短ければもっと傑作だったと感じてしまうのはやや残念。

で、総括としての感想としては、正直可も不可もなくになってしまった。
その原因はなんだろうと考えると、結局前作からの「失われた15年」に行き着いてしまうような気がする。

とにかく時代設定が古いのに思わず苦笑い。よ~く考えると設定上しょうがないのだが、改めて時を感じさせてしまう。
けれども、それは単に設定の問題だけじゃなかった気がする。
前作『双頭の悪魔』を書いたのが32歳だから、その時点で著者自身も若くなかったわけだが(失礼)、この最新作に比べると瑞々しさがあったような気がする。
英都大ミス研のメンバーの言葉や行動に無理な若々しさを感じてしまったのは気のせいだろうか。
なんだか、私の知ってる江神さんやアリス、マリアとどこか微妙に違ってる気がしてしょうがない。
それがモチさんや織田になるともっと違和感がある。どんなに活躍しても脇役におさまってる。

この違和感は結局最後まで残った。
振り返ってみると、最新作までの「失われた15年」に起こった現実の出来事が著者の心に少なからぬ影響を与えてしまったのかもしれない。
もちろんそれは悪いことではない。悪いことではないが、やはり寂しさは残ってしまう。お互い年を取ってしまったな~と。
記事の途中でも触れた長さ、それを感じる原因のひとつもここにあると思う。
前作『双頭の悪魔』も大概長い作品だったけれども、この作品ほど長さは感じなかった気がする。
それは推理とは別の部分でのドラマ、特に江神さんやアリス達の行動や会話がもっと生き生きしてたからだと思うのだ。
この作品においては、その部分に結構な単調さを感じてしまったのは否定できない。
これがもっと早く書かれていたならば、もっと彼らは生き生きしてたんじゃないか。。。
禁句かもしれないけれどもそう思ってしまう。

今年度のベスト10には入る作品だとは思う。そして次の江神シリーズを待ち遠しく思うのは変わらない。
それでも「失われた15年」は私にも著者にも大きかったんじゃないだろうか。。。

べるさんに絶縁されそうだが、正直「はしたなき」第3弾の方が楽しめたような気がする。
さてさて「女王国~」と「はしたなき」第3弾を読むであろうゆきあやさんの感想が楽しみだ。


追伸 ☆関係なしの個人的シリーズランキング

1位 孤島パズル
2位 双頭の悪魔
3位 女王国の城
4位 月光パズル


採点  3.7