『リベルタスの寓話』(☆4.0)


まずはあらすじ。

中世クロアチア自治都市、ドゥブロブニク。ここには、自由の象徴として尊ばれ、救世主となった「リベルタス」と呼ばれる小さなブリキ人間がいた―。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナの一都市モスタルで、心臓以外の臓器をすべて他の事物に入れ替えられるという、酸鼻をきわめる殺人事件が起きた。
殺されたのはセルビア人の民族主義グループの男たちだが、なぜか対立するモスリム人の男の遺体も一緒に残されていた。
民族紛争による深い爪痕と、国境を越えて侵食するオンライン・ゲームによる仮想通貨のリアル・マネー・トレード。
二つの闇が交錯するとき、複雑に絡み合う悲劇が起こる。
同じく民族紛争を題材とした中編「クロアチア人の手」も同時収録した、大迫力の最新刊。

amazonより

今年もでました御手洗潔。一時期は毎年秋に発売されてた御手洗シリーズを楽しみにしてたんですけどね~。
それがいまや近年の島田作品の低調ぶり、特に御手洗シリーズの出来がイマイチだったね、ああ、また出たまで格が下がってましたが。。。

いや、久しぶりのヒットじゃないですかね~、これ^^

まずは表題作。とにかく初期の島田作品を彷彿させるような陵辱を受けた死体、そして容疑者を守る科学的アリバイがそそってくれます。
200ページ程度の中篇ながら、コンパクトにまとまっているので、さくさく読み進められます。
事件が真相に近づくにつれ、中盤に挿入されたモスタル地方に伝わる寓話(ここは完全に創作。島田氏によくあるパターンながら、『ネジ式~』以来の出来の良さ)が効果的に効いてきます。
最近はこういったパートと現実の事件の乖離が激しかっただけに、ある意味感動できました(笑)。
正直、日本パートのダラダラ感や生き生きと伝わってこない文章(笑)には難があったんですが、事件そのものがインパクトがあったので、楽しくは読めましたね。

それにしても犯人がアリバイトリック、強烈すぎます^^;;あとがきによると実現可能なトリックだそうですが、こんなことまでしてアリバイを作る奴はいないこと請け合い(笑)。
でもそのあまりの破天荒っぷりが初期の島田作品を思い出させてくれて、ついつい微笑ましく感じてしまいました。
死体陵辱の真相に関しては、あからさまにヒントが提示されているのである程度想像がつくし、動機の唐突さ(一応丁寧に組み立てられてはいます)などの弱点はあるんだと思うんですが、ちょっとほろ苦いラストも含めて、近年の作品の中では出来は良いと思います^^

続きましては同時収録の「クロアチア人の手」。
前半の『リベルタスの寓話』とリンクがあるのかと思ったのですが、クロアチア人が被害者なのと紛争の悲劇をベースにしている以外はまったくリンクしてませんでした。
そして今回のメイン探偵役は石岡くん。
密室の中で発見された死体は顔と右手をピラニアに食べられていた、そして本来その部屋にいるはずの人間は現場近くの路上で爆死!!
まず密室となった深川の芭蕉記念会館のVIPルームがすごい!!
なぜか窓が無い部屋で、扉は内側からしか鍵が掛からない。表の扉には鍵穴すらないので不在時のセキュリティは危険度抜群。
しかも扉は分厚い鋼鉄製。とてもじゃないがこんな部屋には泊まりたくないというのは私だけ?

芭蕉記念会館というのは創作らしく、モデルは江東区にある芭蕉記念館と思われるのだが、実際にこんな部屋があるのだろうか。。。
死体は一つ、容疑者も一人。物語の狙いは密室の構成理由および方法。動機は冒頭で寓話的に語られてるしね~。
構成理由に関しては、ま、大体簡単に解けるでしょう。
問題は密室の構築方法。『リベルタスの寓話』に続いて、島田御大推奨21世紀型本格風味てんこ盛りなトリック炸裂です(笑)。
バカさ加減は『リベルタス~』の上をいってるでは^^;;
絵的には往年の横溝や乱歩的なんですが、いかんせん○○ですからな~、ううむ、こんなに簡単にできるのだろうかこれ。
動機の設定は『リベルタス~』同様、腑に落ちない(特に殺人のタイミングという点について)ところがあったりするし、会話文章がなぜかノホホンとしてる、そして石岡を励ましてるにも関わらずほとんど真相を喋ってしまった御手洗など、いくつかビミョーな点はありましたが、それでも近年の島田作品に比べると全然マシだと思うのですが。
そして、物語のラスト。この終わり方は島田作品の中では異色中の異色なのでは。それぐらい意外だったし、作品に合った終わり方だと思います。

小説としての難点や、掘り下げ不足なところは多々ありましたが、事件の魅力性、挿入される寓話が読者の為のヒントになってたりと、ミステリとしてのバランスは悪くない。
正直、甘い採点かもしれませんが、もしや島田荘司復活?という気配を感じさてくれたのはよかったす^^



採点  4.0