『湖畔亭事件』(☆3.3)



神経衰弱症の療養の為訪れたA湖畔にたたずむ旅館湖畔亭。
幼少時からの性癖、鏡の興味から作り出した覗き眼がねを旅館の浴槽に取り付けた私は、浴槽でのさまざまな人々の姿を覗き見る陰湿な楽しみに耽っていた…
ある日、いつもの様に覗き穴から覗いた浴槽で見たのもは、甲に黒い傷を持つ手にキラリと光る短刀だった。
次の瞬間浴槽にたたずむ女は背中から赤いものを流し倒れていった。
スーツケースを持ち、急いで旅館を引き上げる紳士。
消えた死体。
湖畔亭に泊り込む画家河野と共に事件の真相に迫る主人公、その意外な結末とは…

yahoo紹介より

ひさびさの江戸川乱歩です。
現在読んでるのが、佐藤さんの新刊、そして「天帝」第2弾(←しかも買ってるし・・・)ということで、時間がかかりそう。
そんなときこそ、短編の魔術師乱歩先生の出番(笑)。

短編というには長く、長編というには短い。つまりは中篇。
相変わらずの幻想趣味は炸裂しております。
「屋根裏の散歩者」を思わせう覗き見趣味、「鏡地獄」を彷彿させる合わせ鏡の遊戯。
さらに通俗スリラー物に通じる、遠眼鏡(って言っていいですよね)越しの殺人風景などなど。
この辺の妖しさなんかは、意外と現代に通じるものがあって「分かる、分かるぞ~」と思う人がたくさんいるのでは?

一方で、それらの要素がきちんと結末で纏まっているところなんかは、乱歩にしては意外な程正統派ミステリーといえると思います(失礼)。
作品としての吸引力はそれほど強くないものの、シンプルな謎当て的要素が伺えて、ついつい想像しまいます。
でも結局はずしたんですけどね。犯人は分かるんだけど、そのオチは検討してなかったな~ってなもんで。

ラストのラストまで登場人物のキャラクターは良く出ているし、なんとも居心地の悪い締め方も作品としてのバランスを崩していません。
正直文体などは古臭さが否めないのですが、正統派探偵小説家としての江戸川乱歩を楽しみたいのならおすすめなのではないでしょうか。


採点  3.3