『悪魔の降誕祭』(☆3.8)



師走も押した12月20日。金田一事務所に「小山順子」と名乗る女性から、周囲で殺人事件が起きそうだとの電話が入る。だが等々力警部との先約があった金田一はどこか胸騒ぎを覚えつつも留守宅に順子を待たせることにした。はたしてその夜金田一が帰宅すると、密室状態の事務所の洗面所に横たわるのは毒殺された女=順子の死体だった!!

遺留品から小山順子は偽名で本名は志賀葉子、大人気ジャズシンガー・関口たまきのマネージャーであることが判明した。それでは葉子がいった殺人は、たまきの周囲で起きるのか?葉子のバックにあったのは、たまきの知人の美青年・道明寺修二の切り抜き写真。さらに調査では、たまきの夫の実業家・服部徹也には前妻があり、彼女は葉子の死因と同じ青酸カリの嚥下で死亡していた。

やがて経堂にあるたまき家で、今度は服部が刺殺された。緊張を深めた金田一と捜査陣は同家に乗り込むが、そこで謎の悪魔は、大胆にも警察と名探偵の前でさらなる牙を剥くのだった。

『僕らの愛した金田一耕助』より

『僕の好きな横溝正史』の記事で個人的ランキング9位に挙げたこの作品。
久しぶりに読み返してみましたが、やっぱ好きっすね。
短編と中篇の間ぐらいのページ数ということで、決して長い作品ではないのですが、その中にも横溝エッセンスがつまりまくってます。
金田一と目の鼻の先で死ぬ依頼人、密室、犯行予告、複雑な人間関係、アリバイに守られた容疑者達。
ひとつひとつの完成度は飛びぬけてはいない(というよりショボイのもままあります^^;;)ものの、それぞれが上手く絡み合って事件の緊張感を醸し出してますな。
たまき家で起きた殺人事件のでも、被害者の心境が重要な意味を持っているのですが、そこがきちんと書かれているので、少々突飛なものでもしっくりきますね。

その中で僕が『犬神家の一族』や『女王蜂』、『悪魔が来たりて笛を吹く』を押しのけて、9位に押したのはひとえに犯人像。
後年発表した長編小説にも通じる悪意に満ちた犯罪者の描き方が強烈だったんですな~。
それも長編の方がやや冗長に過ぎた部分を感じた分、こちらの方がシンプルに怖さが伝わってきましたね~。
なんといっても事件終結後に金田一が語った動機の、二転三転する厭らしさは同情すら感じさせません。
ラスト1行、等々力警部の質問を黙殺した金田一にもそんな部分があったのだと思いますね。

それにしても読み返して1日しか経ってないのに、金田一の事務所での密室殺人のトリックをまったく覚えてないのはなぜ^^;;

採点  3.8