『車井戸はなぜ軋む』(☆3.6)



旧幕時代にK村の名主だった本位田家は、同格だった小野・秋月の両家が没落するのを尻目に、昭和期以降も隆盛していった。
やがて秋月家の男子だが、実は本位田の血を引く伍一が、本位田家の嫡男・大助と二重の瞳孔以外はそっくりに生まれる。
事実上の兄弟ながら窮乏する秋月家の伍一は大助への呪詛を深めるが、とも出征して復員してきたのは、失明して気性も荒くなった大助だけだった。
この大助は・・・まさか・・・?との疑惑が周囲に広がるなか、ついに惨事が発生した。

「僕たちの好きな金田一耕助」より

『本陣殺人事件』(角川文庫)に収録された短編。
地味な作品であるので粗筋の文章が無く、「仕方ない、自分で書くか~」と思ったら、宝島社発行「僕たちの好きな金田一耕助」に載ってたので引用。
ありがとう、別冊宝島!!

ついでに「僕たちの~」によると、この短編は昭和24年に雑誌に発表された非金田一の短編に、昭和30年になって金田一登場場面を追加して再構築、発表されたものだそうな。そんなこんなで、この作品で金田一は事件を解決していない(といようり探偵役を他者に譲った)。あくまで傍観者である。

戦争負傷による人物の入れ替わりの疑惑、その確認の為に登場するのが手形を捺して神社に奉納された絵馬・・・
もうこれだけで、横溝ファンならばあの傑作長編『犬神家の一族』を思い出すでしょう。実際に事件の構造も含め原点といいたいぐらいの共通点を感じさせてくれます。
もちろん長編であり肉付けも豊かな「犬神家~」に比べるとミステリとしては非常にシンプルな出来。
いろいろなところで素朴な面もあり、犯人もおおよそのところで想像がつきます。

むしろ、この小説において評価したいのは事件の裏側に流れるどす黒い悪意でしょう。
これは『犬神家~』や『獄門島』にも通じるものであり、登場人物達を悲しい結末に導いた憎悪の執念にはぞくっとさせます。
そういった意味でもこの小説の語り部は、金田一よりも運命に翻弄された少女であったのは相応しかったのかもしれません。
小粒ながらも実に横溝らしさが感じらる佳作だと思います。

実は結構好きな作品。。。



採点  3.6