『聖フランシスコ・ザビエルの首』(☆2.8)



聖フランシスコ・ザビエルの遺骸は、死後も腐敗することがなかったという。鹿児島で新しく見つかった「ザビエルの首」を取材した修平は、ミイラと視線を交わした瞬間、過去に飛ばされ、ザビエルが遭遇した殺人事件の解決を託される。修平が共鳴したザビエルの慟哭の正体とは…。

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柳さんには珍しい初出が単行本以外(ノベルズ)の作品。恐らくデビュー以来初めてでしょう。
もしかしたら柳さんでもこれだけは読んだ、という人もいるのかも。
形としては、「ザビエルの首」により過去に飛ばされた修平が、いろいろな時代のザビエルが出会った不思議な事件を解決するという連作短編集。
とはいっても、それぞれが第1話、第2話という表記ではなく、第1章、第2章となっているのので、連作短編集と見せかけた長編といってもいいんだろう。

それぞれの短編の出来はというと、可も無く不可も無くといったところ。
日本を舞台にした第1章は、殺人も起きるし動機そのものの物悲しいもののどこか悲喜劇的なユーモアさがある。
第2章はインドの修道院を舞台にした殺人、第3章は・・・という風にじょじょに過去に遡っていき、最後の第4章はザビエルの子供時代である。
修平はその都度、ザビエルのそばにいた人物の一人の体に飛び込み、事件を解決していく訳だが、それぞれの組み合わせ的なところはチグハグな感じがするし、一応論理的に解決はされていくものの、どこか腑に落ちない部分も無くは無い。
そういった意味ではミステリとしての充実感は弱いと思う。
ただそういった創作的な謎の端々に、「ザビエルの腐敗しない死体」などの現実の逸話に対する著者の解答などはなかなか面白いな~と思った。

で柳氏といえば、やはりラストの逆転劇という要素なのである。
今回も最終第4章において犯人(?)によって少年時代のザビエル突きつけられる言葉によって、世界は一変する。
またそれは修平にとっても長年心の奥に隠してきた古傷が浮かび上がってくる瞬間。
このザビエルと修平を結びつける共通のジレンマの扱い方は、それなりにはまっている。

ただそこから浮かび上がるものが、推理小説としては決して目新しいものではないのがちと残念。
別にアイデアの使いまわしが悪いとは思わないのだが、読ませるという部分においてそれぞれの章でおきる事件のボリュームが薄い分、ほろ苦いラストの余韻が味わい深いところまではたどり着けなかったように思う。
解かれない謎の数ももう少し少ない方が良かったかな~。

そういった要素を考えると、初めてのノベルズということで柳さんを初体験した読者の心を掴める作品かというと微妙な出来なんだろう。
多分に好き嫌いが分かれる作品、あるいは印象に残りにくい作品になってしまってる。


採点  2.8