『天帝のはしたなき果実』(☆1+3) 著者:古野まほろ



90年代初頭の日本帝国。名門勁草館高校で連続する惨劇。子爵令嬢修野まりに託された数列の暗号を解いた奥平が斬首死体となって発見される。
報復と解明を誓う古野まほろ吹奏楽部の面子のまえで更なる犠牲者が!本格と幻想とSFが奇跡のように融合した青春ミステリ。
第35回メフィスト賞受賞作。

中井英夫の『虚無への供物』に人生を狂わされ、新本格推理をプロデュースした宇山日出臣。
奇跡的なめぐり合わせにより、本書はその名伯楽からの最後の贈り物にして最大の挑発となった。
これこそ、虚無なる青春への供物。
真正の本格にして破格のミステリ。
この美酒に天帝は必ずや微笑む。

amazon紹介

日本ミステリの最高峰にして墓碑銘、唯一にして孤高。
伝説の作品『虚無への供物』の作者中井英夫は自らの小説観をこう語った。

「小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない」

かつて『虚無への供物』に魅せられ、ミステリにその人生を捧げた宇山氏が送り出した最後の作品。
有栖川有栖の強烈の賛辞と共に、強烈な墓碑銘を背負い送り出されたこの作品。
個人的な結論を言わせてもらえるならば、この作品は

平成の「虚無への供物」ではなく、平成の「虚無なる供物」だった。。。

つまり、

長えぞ、こら~~~~~~~~~~~!!

読みづれえぞ、おら~~~~~~~~!!


きっつい、まじきっつい。
ある意味「これぞメフィスト賞」な作品を久々に読んだ気分。

まずページを開くとすぐに気づく異様なまでのルビの多さ。
「朱色(シナーブル)の短外套(ピーコート)」や「細肉茶飯(ハヤシライス)」「愛の劇場(ソープオペラ)」なんかはまだ許せるが(←そうか?)
「なんやと!!(ヴァスドゥザーグスト)」や「400Mリレー(シュタッフェルラウフ)」なんてどこにルビ振る必要があるんじゃ!!
まあ、個性といえば個性でしょうが、こんなんが延々続いても読む気を失うか、ルビを視界から消してしまうだけ。
つ~か、買おうと思って本屋でページを少し開いて、そのまま本棚に戻してしまった客は、100や200じゃすまないと思うのだが。
ついつい有栖川先生は、ルビが振ってない原稿を読んだのでは!?と疑ってしまいました。

そして文章も個性的。
とにかく、群像劇調な上、「この台詞誰が喋ってんねん!!」と混乱することしきり。
私なぞは、ラスト近くまで作中人物の古野まほろが男か女か判断しかねてしまった(いやまあ普通に考えれば男なんだが)。
それに加えて、吹奏楽がベースに据えてある事もあって、専門用語の乱発も敷居を高くしている原因かもしれない。
最後まで登場人物が連発する「あふう」という嘆息(?)が脱力しきりだ。

あえてフォローするならムチャクチャ下手という程ではないと思う。
読みづらさにしても、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」ほどではないだろう(←フォロになってない?)

とにかく架空の日本を舞台に物語が展開していくだけに、その世界観を感じ取るのに時間が掛かってしまい、なかなかページが進まない。
全体で800ページの長編なのだが、読むスピードに勢いがついたのがアンサンブルコンテスト会場で殺人が起きる500ページ前後から。
コレ以降、それまでの展開が嘘のような、そしてやっとこさ「虚無への供物」を彷彿とさせる推理合戦(←それまで頻繁に登場する青い薔薇ぐらいしかその匂いが)が繰り広げられ、おおっミステリ!!になってきます。
この会場でおきた殺人事件の真相に至る過程はかなり緻密。読者への挑戦状も挿入されるという気合の入れようだし、論理的に解決まで至ります。
まあ、伏線というかヒントがあまりに衒学的な文章に埋没しているため、100人読んだら100人気づかないだろうと思うのが難点ですが^^;;

そして他の事件の真相と事件全体の動機、主人公たちが通う高校に隠された謎が明らかになるラスト100ページ。

なんじゃそりゃ~~~~~~~~~~!!


と叫びたくなる衝撃の展開に悶絶必死でございます。
たしかにこれをやろうと思ったら、架空の日本を舞台にしなきゃまずいだろと思いました^^;;
思いましたが、こんなん分かるわけないだろ!!つ~か、最初の被害者があまりに可哀想になってしまいました。
エピローグの部分も理解不能だったし。

もしかしたらこの作品、

「虚無なる供物」ではなく「虚無なるB」

なのかもしれません。
正直、後半300ページに限るならわりと面白く読めた。
ただあまりといえばあまりな前半がなあ。。。

いったい有栖川先生はどこを指して絶賛したのでしょうか。
まさか、作中に千原由衣(『双頭の悪魔』に登場した元アイドル)が実在の人物で登場したから?
それとも主人公古野まほろの愛読書が『月光ゲーム』だから?
うーむ、神秘じゃ。。。

あ、ちなみに畠中有里奈(法月綸太郎『雪密室』『ふたたび赤い悪夢』に登場するヒロイン中山美和子の芸名)が、千原由衣とミュージカルで競演しております。
え?そんな事どうでもいいって?
僕もそう思います。

とにかくお知り合いのミステリブロガーの方が誰も読んでないこの作品。
おそらくこれからも誰も読まないんじゃないか(笑)。
あ、そういえばメフィスト賞の書庫を持っておられるマドモアゼルゆ○あや(←自粛)がいらっしゃいましたな。
あの方なら読んでくれるでしょう。読まないと書庫が完成しないしね、ふふふ。


採点  1+3(読みきった自分に3点)