『片眼の猿』(☆3.0)



俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。その秘密は追々分かってくるだろうが、「音」に関することだ、とだけ言っておこう。今はある産業スパイについての仕事をしている。地味だが報酬が破格なのだ。楽勝な仕事だったはずが―。気付けば俺は、とんでもない現場を「目撃」してしまっていた。

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昨年ブレイクした道尾さんの最新作。
書評ブロガー仲間の記事をちらっと見てると、賛否が分かれていた。
で私はというと、どちらでもない。つまるところ可も無く不可も無く、楽しめたといえば楽しめたし、物足りないといえば物足りない。

これより前に出た『シャドウ』『向日葵の咲かない夏』が素晴らしかったせいかもしれないのだが、どうしてもいろいろな部分で物足りなさを感じてしまうのだ。
たとえば主人公が関わる事件の真相の中で登場人物達の能力的な特徴が重要な役割を担うのだが、それにしてもせっかくの個性を生かしてない部分が多い。
叙述的な部分において、主人公達の謎に関しては違和感を感じつつもすっかり騙されてそれはそれですごいなあと思ったのだが、実際のメインストーリーにおいて対して効果が無いのがもったいないのだ。
一つにはミステリしてはボリュームに問題がある本編の謎を補うためのネタなんだろうとは思うが、読んでてそこを考えた人は殆どいないのではないだろうか。だからすべてのエピローグ的箇所でのネタ晴らしに驚きはあっても、感動もしなかったし唸りもしなかった。

物語の見せ方としても、丁寧に伏線は張ってあるしそれなりのレベルではあると思うのだが、一方で妙に平板な感じもした。
もしかしたら、これは初出が「新潮ケータイ文庫」で配信されたことに関係があるのだろうか。確かに携帯に配信される小説があまり小難しくても読む気はしない気もする。
ただここまで小説としての個性に乏しいのは、『向日葵の咲かない夏』で異様な世界を描ききった著者だけにやっぱり肩透かしを覚えてしまう。
とくに二人の人間の間で揺れ動く主人公の考え方というか、生き方がいまいち伝わらなかったので、ラストの綺麗な締めくくりが私としては今ひとつ伝わってこない。
もうすこし人間味があってもいいと思う。これは主人公だけでなく新しく事務所に加わった女性もそうなのだが。。。

なんだかいろいろ面白くできそうな要素がたくさん転がってるのに一番無難なところで纏めた感じ。
ただシリーズ物として書いていっても面白いだろうと思う面々が揃っているので、ケータイ小説ではなく普通に書籍として発表して欲しいと思った。
ぜひとも続編を希望しておきます。



採点  3.0