『僕の殺人』(☆3.8)



僕が5歳の時、信州の別荘で起こった惨劇―それは僕自身の記憶と両親を奪い去った!!
あれから10年、事件の真相に迫ろうとする男が現れ、殺された。
あの事件には、なにか封印された秘密がある。
僕は犠牲者ではなく、加害者だったのかも・・・・・・。
意想外のトリックとみずみずしい感性で描く青春本格ミステリー。

amazonより

太田さんのデビュー作であり、僕にとっても初めて読んだ太田作品。
発売から半年ぐらい後に古本屋で見かけたのが、一人称の語り手である「僕」が『犠牲者、加害者、探偵、証人、トリック、そして記述者』の一人六役を務めているという紹介文にのけぞってしまった。
なにしろ当時新本格を読み始めとにかくミステリに飢えていた。そんな僕にはあまりに刺激が強すぎる粗筋。

ジャプリソの「シンデレラの罠」を強く意識していると紹介されているが当時(そして今も)その作品は未読だったのものだから、ワクワクして手に取り、最初から最後まで興奮して読んだのを憶えています。
特に犠牲者という言葉に当時は犠牲者=死者と思っていただけに犠牲者=探偵は成り立つのかと思っていました。

よ~く、考えると犠牲者=死者っていうのはあまりに単純な発想、今考えると若い~なと思いものの、今読んでも、この一人6役は実に自然に成立していると思います。
本格としては、作中に登場する密室こそ初歩的なもの(ただし実現性は非常に高い)だったものの、「僕は誰?」という事件の核心部分においては二転三転し読み応えがあるのではないでしょうか。

ただ本格としての要素以上に、青春ミステリーとして非常に完成されていると思います。
少年的な純粋さ(単純さ)と思春期にさしかかった子供特有のナイーブさと思索性が融合され、主人公の少年に対して共感を覚えやすい。
さらには少年の幼馴染である少女とのまるでガラス細工のように脆くも美しい関係が胸を打つ。

事件の構造が明るみにでたあと、主人公達が取った行動。
果たして彼らの未来に何が待ち受けているのか誰にも分からない、作者もまた答えを出さずに終わっているわけですが、それがまたほろ苦い青春の青臭さを含んだ物語のラストとして相応しい気がします。

今読み返してみると、初期の東野圭吾に似ている雰囲気を感じましたが、東野さんがどこかクールな視線を含んでいる(それがまた切なさをかきたてる)のに対し、こちらはその残酷性にも関わらず、どこか著者の主人公を見つめる視線に優しさを感じてしまいます。
この優しさは、現在の太田作品に通ずるものであり、それが文章の硬さこそあるものの、デビュー作からすでに表現されているのはすごいなと思うし、これからもその作風を失わない作品を読ませて欲しいと改めて思いました。

現在は絶版になっているようなので、入手するのは若干難しいかもしれませんが、太田ファンでこれを未読の人はぜひとも手に取ってほしい作品です。


採点  3.8