『刑事失格』(☆3.0)



死体の咬傷(かみきず)が刑事志望の警官の運命を変えた。

鶯橋派出所管内で起きた殺人事件。死体に残された噛み傷、何かを隠しているそぶりの同僚、夜ごと駅前にたむろしている少年たち。
絡み合う小さな謎がやがて大きな疑惑へと変貌するとき、刑事志望の外勤警官は、自分自身の過去と対することになった。
新本格の気鋭が、熱き思いで開いた新境地、傑作長編推理!

amazonより

初版は1992年の講談社ノベルス版ということで古い作品ですね~。
今回は古本で文庫版を入手。ノベルズ版も持っているのですが、いかんせん倉庫のダンボールの山の中にうずまってるんでね~。

作品としては太田さんにしては割りと珍しい正統派ハードボイルド警官小説。
解説(←ちなみに文庫版の解説はけっこう酷い。。。)を読むと太田さんが好きな海外作家としてクイーンの他にロス・マクドナルドが挙がっているので、なるほどな~と思ったり。
主人公は阿南。これ以降も2作品ほど登場する(その内一冊は藤森涼子と共演)シリーズ探偵。
キャラクターとしてはかなり堅物で、法を守る事が幸せの方法だと考え、法を守らせるために警官になった男。
彼を中心に据える事によって、謎そのものよりも彼自身の情景がメインとなりつつも、一方で本格的要素を盛り込んでいるという点では確かにロスマク風味。

ただ印象としては、ミステリの解明、阿南の物語という両者のバランスがやや軽い。
ミステリ部分は丁寧に伏線を張り巡らされてはいるものの、その配置が分かりやすく最終的な真相部分はミステリ好きならば想像の範疇。
それを補うべき阿南の物語に関しても、彼の過去に対するトラウマと事件を通じて出会う女性との関係の描き方がやや結びつきにくい。
そういった意味では両方の部分がクロスするラストの悲劇性に対する意外性、もしくはドラマ性が乏しくなってしまった印象。

この物語がハードボイルドである必要性は感じさせてくれるので、もう少し阿南の心情やドラマにページを割いても良かったのではないだろうか。
太田さんの他作品に見られる切ない後味は嫌いではないので、少々物足りなかった。

まあ、逆を言えば阿南シリーズの前章としての本書があって、これ以降本格的に人間阿南の物語が始まると捉える必要があるのかも知れない。
そんな事をいいつつ、これ以降の阿南作品の印象があまり無いのでなんとも言えないのですが。

さて、最後に余談。
実は僕の中でこの阿南という人物と、東野圭吾の作品に登場する加賀恭一郎がダブって記憶されておりました。
でも改めてよむと全然違う。
むしろ同じ東野作品『宿命』に出てくる刑事と混同してたのかも。
人間の記憶はなんていい加減なのでしょう。。。


採点  3.0