『僕らが愛した手塚治虫』(☆4.4)



小学館のPR誌『本の窓』連載の「僕らが愛した手塚治虫」の第1回から第27回までをまとめた一冊。著者が子供時代から青春時代にかけて夢中になった手塚治虫とその作品について思いのままに綴り、手塚マンガの魅力に迫る。

喜国雅彦氏絶賛!
「あの頃、お金がなくても、手塚治虫が読めれば幸せだった」そして、今、「その手塚治虫という神様の足跡を追う、一人の少年の夕焼け冒険譚が出版された」

yahooブックス紹介より

今月はなんだか評論づいている気がする。
その中で何度か取りあげ批判させて頂いた二階堂氏。
そんな二階堂氏が、現在「本の窓」に連載中の評論のうち、二〇〇三年七月号~二〇〇六年二月号分全27回を大幅加筆訂正し収録した本作。

いやあ、予想以上に面白かったです。
タイトルからも想像できるように基本的には手塚治虫の歴史や業績を追いつつ自身の熱い思い(笑)を語っています。
また、それだけにとどまらず、同時代に発表された他作家の漫画、あるいはテレビ漫画、映画の歴史まで網羅した、渾身の作品。
手塚漫画、もしくは昔の漫画に対して多少の知識と若干以上(へんな喩えだ)の思い入れがあれば、それなりに面白いんじゃないかな~。

手塚治虫の業績部分に関しては、さすが元手塚プロ公認ファンクラブ会長を務めた事のある氏(しかも奥様も元手塚プロ社員)だけあって、非常に詳細。
さらにはそのコネを生かした手塚近辺の人々の談話が収録されているのも、また素晴らしい。
ことに次第にアニメ製作にのめりこんでいった手塚と、それゆえに徐々に経営が苦しくなっていく虫プロの内情分析は、読み応えがあります。

さらには、氏が収録している漫画の図版が数多く収録されているので、そういった見た目も素晴らしいし、非常に分かりやすい。何より面白い。
ミステリ評論では時に先走ってしまう氏の情熱が今回は大変いい方向に作用してますな。

現在も連載中、前書きによるとおそらくは全3~4巻ぐらいになるのではないかと語っているこの本。
完成の暁には、手塚研究史、あるいは漫画研究史に残る1冊になるかもしれません。

その頃の漫画や手塚治虫ファンの方は見逃せない1冊だと思います。



採点  4.4