『宙(そら) 新宿少年探偵団』(☆4.5)



壮助、美香、謙太郎、響子ら四人が生まれて来た理由とは?蘇芳、ジャン・ポールの正体とは?阿倍北斗の存在理由とは?新宿は、なぜ大怪樹に呑み込まれなければならなかったのか?そして、美香、壮助に生まれながらに与えられた哀しい宿命とは?新しい世界の様相が、全ての答が、今ここで明らかに!シリーズ完結編。

yahooブックス紹介より

いよいよ、新宿少年探偵団シリーズも完結です。
いやあ、読むのは2度目にも関わらず泣いた泣いた。190ページ過ぎから終わりまでの約80ページ、泣きっぱなしです、はい^^;;

後書きにも書かれている通り、この小説は企画段階では当初は江戸川乱歩の少年探偵団現代版のはずでした。
怪人と少年達のバトルを、現代の科学の中で描き出しながらもそこにあやかしのエッセンスを注入する。。。
しかしながら著者の思惑を越え、現代の科学の進歩とそれが生み出す闇は深いものがあったのですねえ。

三作目の『摩天楼の悪夢』はそれでも本格的な味わいを残していたののですが、それ以降はSF的な要素がより強くなり、それと同時に個VS個を描くというよりも、むしろ物語そのものが主役。
前編ともいうべき『大怪樹』を受け継いだ本作品の結末は、SFの世界においては王道的(多分)な結末を迎えます。
いってしまえば現代版「少年探偵団」というより「2001年宇宙の旅」。
混沌の世界の象徴として選ばれた新宿新都心に広がる大森林、それ立ち向かう警官あるいは自衛隊の姿は、まさにパラダイム・シフトの縮小版。

そのパラダイム・シフトが発現するなかで、美香と荘助を包み込む運命の残酷さと哀しさは胸に迫ります。
ただどうしようもない宿命の中で荘助が感じたもの、そして導き出した結論は、たとえそれすらも宿命の輪の中の出来事だったとしても、なお大切なものを守り続けようとする意思の強さと美しさが感じられました。
苦い結末の中にもどこか前向きなものを感じさせる優しさを持った物語は、いかにも太田さんといった感じ。
目まぐるしくうごくSFアクション的な展開の中でも、張り巡らせた伏線の収拾の仕方、あるい登場人物の行動を一つ一つ必然の中に取り込み、説得力のある筋書きに昇華させた手腕を含めて、このシリーズは太田さんの一方での代表作だと思います。

とにもかくにも読者の予想すら大きく裏切るような壮大な物語を見事に完結させた太田さんの手腕に拍手。
ジュブナイルだと思って侮っている方、騙されたと思ってぜひ1度手に取ってください。
そのときにはぜひ第1巻から。とまらなくなること請け合いですよ。

ただし、SFを読みこまれている方には物足りないかも^^;;;


採点  4.5