『甘栗と金貨とエルム』(☆4.1)



名古屋に暮らす高校生・甘栗晃は、突然亡くなった父親の代わりに、探偵の仕事をすることに。依頼は、ナマイキな小学生・淑子の母親探し。― 美枝子は鍵の中に?謎めいたこの一言だけを手がかりに、調査を始めた晃は、初めての「出張」で、大都会・東京へ。慣れない街に四苦八苦しつつ、必死で謎に近づく。。。

yahooブックス紹介より

実をいうと太田さんは星新一ショート・ショートコンテスト優秀作を含んだデビュー作『帰郷』からほぼリアルタイムで読んでいた。(ちなみに収録作の一部はこちらで読めます。)
『~の殺人』シリーズも、狩野俊介も霞田志郎も、そして藤森涼子も。。。
しかしながら、大学時代にもなるとノベルズ以外の新刊はチェックしなくなっていた(理由は金が無いから^^;;)。
そしてこの本である。
出版は去年の9月。しかしながらその存在を知ったのは今年の2月べるさんの記事を見かけてから。実は冴さんが去年の10月に記事にしているにも関わらず見逃していたのだ。
図書館を調べてみると入荷していたので、さっそく借りて読んでみた。

いいなあ~。
太田さんのこういう小説はやっぱり好きなのです、はい。
どこか『~の殺人』シリーズに通じる匂いがあるんですが、どちらかというとYA寄りなのかな。
でも大人の都合と子供の想いを描いたちょっとほろ苦い青春小説はまさに太田さんのお手の物。
最初はあまりにハードボイルド(?)な主人公の語り口に、表紙の少年は途中ででてくるのか、あるいは冒頭で出てくる猫が人間に化けたか(表紙だけみたらジブリっぽいしさあ。もしくは剣の上に顔を乗せたSFの主人公の少年)と思いましたが、主人公が少年だったのね^^;;

この主人公の晃を含め、登場人物達は総じて律儀な人が多い。
とにかく高校生がいろいろな聞き込みに回るととりあえず皆さん情報を教えてくれるし、ご都合主義的な部分が無くもない。
そういった意味では軽めのジュブナイルミステリになってしまいそうなものだが、そこに肉付けされる物語がいろいろ考えさせてくれ、さらにはその部分に依頼されたケースの真相に関わるヒントが丁寧に隠されているから、最後のドンデン返しも含めて読み終わってからの読後感が意外なほどに満足。

また大人の思惑と子供の想いのすれ違いが思いのほかリアル。題材としてはベタな割りに晃が語る一言一言、そしてエルムこと淑子が叫ぶ言葉が突き刺さってくる。
もちろんそれは大人との関係だけではなく、社会というなかで生きていく上では人と関わらずには生きていけない、そしてその中で失っていくものもあるのかもしれない。
と、同時に変わらないもの、または得ていくものもあるはずである。それをどう生かしていくかは自分次第。
晃も淑子と出会って変わっていった部分もあったと思うし(もちろん淑子も)、事件を通して直哉や三ケ日との関わり方もまた変わっていくかもしれない。
願わくば、晃がこれからどうなっていくのか、私達にも見守らせて欲しいものである。
つまりは続編書いてくれって事です、はい。

それにしても藤森涼子とここで会えるとは思わなかった。いや、もうすっかり内容忘れてるから久しぶりに再読してみるかな。
あれ?どこにしまった?




採点  4.1