『背の眼』(☆3.0)



「レエ、オグロアラダ、ロゴ…」ホラー作家の道尾が、旅先の白峠村の河原で耳にした無気味な声。その言葉の真の意味に気づいた道尾は東京に逃げ戻り、「霊現象探求所」を構える友人・真備のもとを訪れた。
そこで見たのは、被写体の背中に二つの眼が写る4枚の心霊写真だった。しかも、すべてが白峠村周辺で撮影され、後に彼らは全員が自殺しているという。道尾は真相を求めて、真備と助手の北見とともに再び白峠村に向かうが…。
未解決の児童連続失踪事件。自殺者の背中に現れた眼。白峠村に伝わる「天狗伝説」。血塗られた過去に根差した、悲愴な事件の真実とは?
第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。

東京創元社紹介より

やっとこさ、道尾さんのデビュー作を読みました。

な、長いな~これ。分量以上に長く感じる。
選評でみなさんが語られているように、物語の刈り込みが圧倒的に足りないですな。
正直このネタであれば、もっとエピソードを絞りこんで中篇程度の長さにしたほうが圧倒的に印象に残ると思うのですが。
特に最後の殺人の部分に関しては終わってみればかなり唐突という印象で、不必要なんではないかと。

選評によると京極夏彦氏の影響に関する指摘が多かったようですが、確かに読みながらそれは感じました。
ただそれは選評者の一人が指摘しているようなキャラ的なものよりも、薀蓄の使い方の部分なんですけどね。
たとえば序盤、真備の事務所で語られた霊に関する薀蓄の交換は『魍魎の函』での宗教の分類を思い出させたり、それが物語の真相部分で絡んでくる所は『姑穫鳥の夏』のそれだったり。。。
ただどちらも本家(?)と較べると腰砕け。霊に関する薀蓄に新しいものは感じないし、現実とのリンク部分では絶妙というよりはそんな事も言ってたねぐらいなもんで。
キャラに関していえば、霊を見る少年が榎木津を彷彿とさせたりとかいうこと?でも真備=京極堂というよりは、冴さんが指摘されたように『民俗学者八雲樹』の八雲の方が近い気がしますね~。助手の北見さんは『QEDシリーズ』の小松崎みたいやなと思ったのですが。

さてさて全体としては前半で提示されるいくつかの謎そのものは綺麗に収束されているとは思うのですが、あまりに無難すぎてインパクトに欠けます。
さらには謎ひとつひとつとっても提示の仕方はなかなかなのに終わってみればほとんど腰砕けに終わってますな。
物語の中心たる眼に関するエピソード(これ自体も事例を挙げる数が多すぎ^^;;)自体のワクワク感はあるものの最後はえっそれだけって感じだし、遺書を残して死んだ婆さんやその息子が死の瞬間に見たものの正体は結局なんやねんと(霊?彼は霊能力者?)。

つーか、なによりまったく怖くないのが痛い^^;;
なぜこうまで怖くないのか・・・。もちろん最大の理由は文章の問題なんでしょうけど、そもそも眼の部分しかイメージがわかない。
物語の重要な要素たるお面や絵に関する薀蓄なんかも、あまりメジャーではない知識な上に著者がそれに無自覚なのか、非常に淡白に感じてしまいます。
なにより怖くなりそうな要素を簡単に説明しすぎて、行間から漂う正体不明な匂いがまったく感じられないのが残念。

結局ホラー的な部分と本格ミステリの要素のマッチングがことごとくすかしてバランスを逸してるんでしょうね。
しかしながら、次の作品が『向日葵の咲かない夏』になってしまう訳で、ある意味この成長はすごいのかもしれない。
とりあえずは新刊が出れば追っかける作家さんだろうと、私は思いますが。


採点  3.0