『幽霊座』(☆3.4)



戦前に発生した稲妻座での歌舞伎俳優失踪事件。金田一耕助はその謎を解くことが出来ず、17年が過ぎた。
そしてまた、幽霊座と陰口をたたかれるようになった稲妻座で事件が起こった。今度は殺人事件だった。


横溝正史に捧ぐ新世紀からの手紙』に収録されている短篇。
角川版は現在絶版になっていますから、現在この随筆集の中だけでしょうか。
もしかしたら角川の他の作品の中に併録されているんでしょうか。

それはともかく作品としての出来はなかなかに優れています。
過去の惨劇が再び繰り返される、そしてその背後に人間の怨讐が。。。
横溝、というより古典系ミステリの王道的な内容がこの短さの中にキチンと整理されて盛り込まれているのは、さすが横溝。
トリックそのものはいたってシンプル(しかも『Xの悲劇』の凶器を踏襲しているあたりが心憎い・笑)ながら、それを補う道具立てが、歌舞伎界という特有な世界の中できちんと反映されていて、無駄を感じません。
なによりも今読んでも文章に古臭さを感じさせないところが素晴らしいですね。
同世代の作家達、あの大乱歩でさえも時折その文章に古臭さを感じてしまうのですが、たとえそのプロットが時代を感じさせるとしてもその語り口の柔らかさは現代の作家といわれても申し分ない。
ミステリ作家としてだけではなく、エンタメ系作品、さらには幻想系まで幅広くこなした氏の筆力に改めて感心しました。

お菓子に入っていた薬物に関しての説明に若干物足りなさは感じるものの、横溝を幅広さを感じる上では手ごろな短篇のひとつかもしれない。
久しぶりに横溝を読み返してみるとやっぱり面白い。
本学大学古典ミステリ同好会会長としては来月あたり、乱歩読破再開、さらには横溝正史一気読み返しを実行してみようかなと思ってしまいました。