『ツール&ストール』(☆3.5)



ある朝、殺人容疑をかけられた友人が飛び込んできて目が覚めた白戸君―「ツール&ストール」
別の日は、怪我をした友人から突然頼まれた、怪しげな深夜のバイトに出掛け―「サインペインター」
それなのにいつでも金欠君、預金残高51円の通帳を握りしめた横で銃声が!?―「セイフティゾーン」
そんななか、やりくりして買ったばかりの携帯に、不穏な間違い電話―「トラブルシューター」
同じ過ちは繰り返さないぞと心に誓いながらも、やっぱり万引き犯と間違えられる―「ショップリフター」
さまざま事件に巻き込まれる、日本一運の悪いお人好し―白戸修・23歳やっぱり中野は鬼門なのか!?
小説推理新人賞受賞作の表題作を含むユニークな「日常の軽犯罪」ミステリ5編を収録。

yahoo紹介より

去年未読・再読を片付けて、発売当初読んだ『七度狐』のときに感じた評価を改めた大倉さん。
その理由はやっぱり短編集で持ち味を発揮する作家さんだということに要因があると思う。

で、この作品も連作短編集。
上のあらすじを見ても分かるとおり、超がつくくらいの巻き込まれ方人間白戸君。
人が良すぎて断りきれない性格が災いして、いろんな事件に関わってしまいます。
でも人が良くても、底抜けの「いい人」ではないという微妙なさじ加減が絶妙な気がしました。

最初の事件では完全に巻き込まれただけで終わるものの、その経験を生かして第2話以降探偵役を務めちゃいます。
そういった意味では白戸君の成長譚としても読めます。
ただ、基本的なスタンスが巻き込まれ方ではあるので、やや吸引力が弱いのが残念かもしれない。

事件そのものは基本的にありうるかも、と思わないでもないのですが、やや強引な展開な気がしないでもないですな。
それはやはりロジック重視的な部分がそう作用しているからかもしれない。
そういった意味ではロジックと共に落語の骨格を併せ持った『季刊落語シリーズ』や、徹底してコロンボパスティージュとしての短編集『福家警部補の挨拶』に比べると、やや物語も単調に感じてしまった。
ただこれから白戸修の成長を踏まえた続編が出るとしたら、それはそれで楽しめるかもしれないと思う。
ようはやっぱりこの人の短編は好きなのだ。

作品とは関係ないが、この小説は東京の中野を中心に物語が回っている。
東京在住のほぼ半分を高円寺・阿佐ヶ谷の中間にあるアパートで過ごした僕としては、演劇のメッカのひとつでもある中野は当然テリトリー。
作中に登場する名称は建物や店舗の名前以外の地名などは実際のものが使われているので、読んでて情景が目に浮かんでくるのは面白かった。
そういう意味で、「サインペインター」が一番楽しく読めた。
また、「セイフティゾーン」の物語の閉じ方の上手さもお気に入りの部分である。