『犬坊里美の冒険』(☆2・6)



雪舟祭のさなか、衆人環視の総社神道宮の境内に、忽然と現れて消えた一体の腐乱死体!残された髪の毛から死体の身元が特定され、容疑者として、ひとりのホームレスが逮捕・起訴された―。しかし、死体は、どこに消えたのか?そして、被告人の頑なな態度は、なぜなのか?司法修習生として、倉敷の弁護士事務所で研修を始めた犬坊里美は、志願して、その事件を担当した!里美の恋と涙を描く青春小説として、津山、倉敷、総社を舞台にした旅情ミステリーとして、そして仰天のトリックが炸裂する島田「本格」の神髄として、おもしろさ満載の司法ミステリー、ここに登場。

yahoo紹介より

この作品の著者の言葉で島田氏は「もう新たなシリーズの主人公たり得るでしょう」と述べている。
これはあらたなシリーズの開幕宣言なのか?初期のころは大雑把に分類すると本格原理の御手洗、社会派問題の吉敷という区分がなんとなくあったような気がしますが、吉敷さんが昇進して落ち着いてしまったし(そうなのか?)、読む限りは社会派担当を里美が受け継ぐって事になるんでしょうかね~。

相変わらず物語の始め方、ここでいうと提示される死体消失の雰囲気はいいんですよ。最近の作品のなかでも気に入ったほうですしね。
はっきりいって途中の情緒あふれる旅情ミステリー要素が本当にいるのかというと別にいらね~だろ~と思うし、逮捕された容疑者が変態すぎる気がするのはどうなんだと思うが、まあさくさく読める。そういった意味では分数シリーズの頃に雰囲気が近いのかなと。
解決編に関していえば、トリックはまだまだ経験不足な里美にあわせたのかやたら腰砕けだし、犯人が真相を語る場面でもなぜここでそこまで語る?という疑問符はつきましたが、まあよしとしましょう。

全体の流れは最近の傾向通り、社会的問題(今回は冤罪システム)を取り扱っておりますが、どうもシステム的な不備といより検察や警察といった権力側の人間に対する個人批判の塊のような描き方になっていて、普遍的な問題とは感じられませんでした。
もう少しオーソドックスな人を描くというのも挑戦する必要があるんじゃなかな~。氏の持論である死刑制度の廃止に関しても唐突に主張されるし(笑)。
そもそも事件を逆転させるきっかけになった死体遺棄現場の矛盾点に関しても、普通は警察調べてるような気がするんですけどね。

それにしても、あまりに里美が馬鹿すぎるような気がしませんか。司法試験に受かり研修所でも勉強も済ませた割には基本的なことを知らなさすぎじゃないですか。
とてもこんな人には弁護を頼みたくありません。一人で突っ走る割にはすぐ泣いて助けを求めるしなあ~。このへんは女性は弱いものと決め付けている島田氏の偏見なのか?
そして最後の裁判所の場面がとにかくまあなんというかねえ。それまでの会話場面では普通に喋ってるのに、妙に舌足らずになってしまって。これをあらわす書き方がまあ板についてないというか、すいませんホント腹立つぐらい読みにくかった(笑)。
冴さんが記事で「媚を感じる」とおっしゃっておりますが、まさに同感でした。
おそらくは里美の成長譚という側面はあろうかと思いますが、スタートの地点があまりに低すぎますよ~^^;;

最近の島田氏の作品としてはいいほうだと思う。
しかしながら過去の名作群があるだけに、これで良い方だと思ってしまう現状がちと寂しい。。。