『プリズンホテル』(☆5.0)



極道小説で売れっ子になった作家・木戸孝之介は驚いた。たった一人の身内で、ヤクザの大親分でもある叔父の仲蔵が温泉リゾートホテルのオーナーになったというのだ。招待されたそのホテルはなんと任侠団体専用。人はそれを「プリズンホテル」と呼ぶ―。熱血ホテルマン、天才シェフ、心中志願の一家…不思議な宿につどう奇妙な人々がくりひろげる、笑いと涙のスペシャル・ツアーへようこそ。

ことあるごとにブログの記事で絶賛してきた浅田次郎の『プリズンホテル』4部作。
久しぶりに書いた記事を見てみるか~と思ってみたらビックリ、シリーズ3作目の「冬」、そして完結編の「春」のレビューしか書いてない。
この最初から読まないと面白さが半減してしまう小説に対してなんと無礼な事を!!

ということで、久しぶりに再読(っていっても1年に1回は読み返しおりますが)。
ああ、もう1ページにあるホテル見取り図の注意書きからもうどっぷりです。

○情報収集には万全の配慮をいたしておりますが、不慮のガサイレ・カチコミの際には当館係員の指示に従って下さい。
○客室のドアは鉄板、窓には防弾ガラスを使用しておりますので、安心してお休み下さい。尚、不審人物、代紋ちがい等をお見かけになった場合は、早まらずにフロントまでご連絡下さい。

もうこれだけでこれが一体どういう小説なのかを雄弁に語っております(言いすぎ?)。
戦後任侠ヤクザ最後の大立物、木戸仲蔵親分が世間から置いてけぼりをくった奥湯元のさらに奥で経営する「奥湯元あじさいホテル」、通称「プリズンホテル」。
当然そこに泊まるは訳あり紋ありの強面の方々。さらには親分の甥で極道小説の売れっ子作家にして極度の偏屈作家木戸孝之介とその愛人、そして手違いで訪れてしまった老夫婦、極めつけは無理心中をもくろむ親子4人連れ。

それを迎えるホテルの従業員も、律儀すぎるがゆえに大手ホテルチェーンを盥回しにさせられたカタギの支配人を筆頭に、坊主頭に傷が眩しい副支配人、タカログ語をけたましく操る不法就労(?)の外国人仲居達。
さらには幽霊まで現れて・・・。

こんな面々が一同に集まったホテルに何も起こるはずがございません。
描かれる2泊3日の宿泊で、彼らが経験した濃密すぎる時間が読者の心にも染み渡ります。
これでもかと不器用な生き方しか出来ない彼らの行動は、理屈では割り切れない任侠を感じてしまいます。
その中には決して一般では正義とは呼べないことも数知れず。みんな心になにかわだかまりを持って鬱々としてるのです。

このホテルにはそんな力を拭い去る何かがあります。
それは多分、登場人物達が不器用ななりに自分に誇りを持っていきようとしているからなんだろうと。
普通だったら説得力の無い言葉も、「プルズンホテル」という場所でかれらが口にするとなぜだかグッときます。

とにかく掛け値なしにエンターテイメント、そして最高の悪漢小説だと思います。
これを読まないと浅田次郎は語れない!!そう思ってます。
未だこのシリーズを読んでない方、騙されたと思って手に取ってくださいまし。
けっして後悔はしないと思います!!

☆は当然満点の5つ。シリーズをまとめると満点すらこえる6点を差し上げたい!!

では最後に本の帯に書かれた著者の言葉を。
まさにこの本の魅力を語ってくれてると思うので引用させて頂きます。

 皆様が二晩お泊りになりました「プリズンホテル」は、そんな私にとってたいへん思い入れ深い夢の館でございます。
 そこにはふしぎな負のエネルギーが凝り固まっております。粗野で凶暴で非常識で、全く油断のならないおどろおどろしい場所。
 しかし時として、メジャーな世界の論理ではどうともしようのなくなった苦悩が、マイナーな世界のエネルギーによっていとも簡単に啓蒙され、解決されてしまう。世の中に良くあるこうした現象を描き出すことが、私のめさすところでございました。