『魔界転生』(山田風太郎)~「時代もの、大好き」その③

「時代もの、大好き」




③『魔界転生』 著者:山田風太郎



あらすじ

島原の乱に敗れ、かろうじて生き延びた天草側の軍師、森宗意軒は、幕府への復讐を誓い、死者再生の秘法「魔界転生」を編み出した。それは、現世に不満を抱く希有の生命力の持ち主を魂だけ魔物にして蘇生させるという桁はずれの超忍法だった。これにより次々と魔界から蘇る錚々たる武芸者達。彼らを操り、紀州大納言頼宣をそそのかした森宗意軒は、さらに由比正雪を手先として本格的に幕府転覆に乗り出した…。驚愕と戦慄の連続。息もつかせぬ展開。天才山田風太郎の最高傑作。(上巻)

幕府転覆を企む森宗意軒の野望阻止に柳生十兵衛は敢然と立ち上がった。敵は天草四郎を筆頭に、宮本武蔵、荒木又右衛門、柳生但馬守、柳生如雲斎…。秘法「魔界転生」によって蘇り、生前と同じ容貌、剣技を持ちながら、この世のあらゆる道徳に背反する魔人たち。隻眼まなじりを決し、孤剣を抱いて十兵衛は、殺戮マシーンと対峙してゆくが…。史上最強の殺人集団と十兵衛との壮絶無比の大死闘。群を抜く着想と圧倒的なスケール。剣豪小説、伝奇小説の極北として屹立する、日本エンタテインメント界の金字塔。(下巻)

本書裏表紙あらすじより

感想

時代物を読まれる人にとってはいまさらという小説。
個人的には山田風太郎の「忍法帖シリーズ」の最高峰にして、著者の作品の中でも屈指の傑作だと思います。
この企画に際し改めて再読(もう何回読んだか)、改めてこの作品のリーダビリィティにただただ感服。
登場する剣豪は主役の柳生十兵衛、魔界衆(柳生十兵衛と対決した順)は田宮坊太郎、宝蔵院胤舜、柳生如雲斎(兵庫)、天草四郎時貞柳生但馬守、荒木又右衛門
宮本武蔵

いずれも剣豪、あるいは剣聖として名を馳せた人物ばかり(ただ田宮坊太郎の存在はこの小説を読むまでは知りませんでしたが)。
これらの魔界衆に対し十兵衛は一人立ち向かいバッタバッタと倒していくわけですが、彼と魔界衆の間に歴然とした実力差があった訳ではありません。
十兵衛と魔界衆の剣豪との差をわけるのはわずかな運。お互いの技量が限りなく互角に近い状態だからこそ、この差がより彼らの戦いの緊張感を増幅する要素をなしています。
それだけに宮本武蔵が十兵衛と対決を前に佐々木小次郎との巌流島決戦を振り返り、その勝敗も運が左右したものとして回想しているのもまた作品の一貫性というものでしょうか。最初に読んだときは意外とあっさり決着がついてるんだなあと思ったものですが、再読すればするほど味わいが増していくような気がします。
と同時に、この緊張感がこの小説を魔界転生という忍法帖の要素だけでなく剣豪小説しても一級の作品とたらしめていると思います。。

この小説を柳生3部作の第2部として第1部「柳生忍法帖」、第3部「柳生十兵衛死す」というわけですが、やはりこの作品が第1等でしょう。

映画

ところで、「時代もの、大好き」という企画にいまさらこの作品を取り上げたのは、映画「魔界転生」に触れたかったから。
この作品の映画といえば、やはり深作監千葉真一主演の方が見られた方も多いと思いますが、今回はあえて平山監督佐藤浩市主演の方を取り上げます。

この作品に登場する魔界衆は荒木又右衛門(加藤雅也)、宝蔵院胤舜古田新太)、宮本武蔵長塚京三)、柳生但馬守中村嘉葎雄)、天草四郎時貞窪塚洋介)。これはやはり対決順ですが、上の原作と較べると人数も減っていますし順番も違います。これは初代映画の総大将天草四郎の流れを汲むものでしょうね。
さらにはこの作品サプライズゲスト(?)として徳川家康まで復活してしまいます。ちなみに演じるのは麿赤児、なかなかやばいです。
ちなみにこの映画版で十兵衛は登場時隻眼ではありません。なぜそうなのかというのは映画版を見ればわかるということで。

この中で触れたい殺陣は、VS但馬守戦とVS天草四郎時貞戦。
その他の殺陣はねえ、又右衛門は柳生衆に手を切られ最後は四郎に殺されますし、宝蔵院戦はワイヤーアクションやりすぎ、武蔵戦にいたっては長塚京三の貫禄不足がもろにでてしまいなんとも緊張感がなかったです。

まずはVS但馬守戦。
この映画が公開された同時期には、上戸彩主演の「あずみ」も公開されていました。
それを意識したのかどうかわかりませんが、当時佐藤さんは「ぜひ本物の殺陣というのを見てもらいたい」という趣旨の発言をしていました。
まさにこの十兵衛VS但馬守戦は本物の殺陣の香りがしました。
壮年の佐藤さんの動きはまだまだ素晴らしいのですが、中村嘉葎雄さんはもういいお年、動きという点では劣るのかも知れませんが、剣魄というべきなのか相手を倒すという気迫が動きを通してビンビン伝わってきます。まさに観客を魅せる殺陣ではなく相手を魅せる殺陣。それに答える佐藤さんも見事。この場面は見ごたえがありました。

逆にそれと対照的なのがVS天草四郎戦。
こちらは完全に魅せる殺陣というべきなのでしょう。炎の中での最終決戦はとにかく派手です。また正統な殺陣の動きを無理につけることなく、窪塚洋介のおそらくは最も動きが生える部分に合わせて殺陣をつけているので、なんとなく天草四郎~って感じです。もちろん全然ジュリーとタイプは違いますけど、これこれであってるんじゃないかと。

全体としてはあまりいいバランスの映画ではないのですが、時間があるときにみてみてください。そこまで損ではないと思うので。


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