『アヒルと鴨のコインロッカー』(☆4.7)



引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の美青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ち掛けてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑。僕は訪問販売の口車に乗せられ、危うく数十万円の教材を買いそうになった実績を持っているが、書店強盗は訪問販売とは訳が違う。しかし決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ!四散した断片が描き出す物語の全体像は?注目の気鋭による清冽なミステリ。


プチ伊坂祭り(?)ということで、久しぶりに再読。
この作品は『重力ピエロ』の次に好きな作品なのですが、再読してもその感想は変わらなかったですね~。

冒頭の何故広辞苑を盗もうとするのか?という意味不明ながらなぜか興味をそそられる謎の提示。そして2年前に起こったペット惨殺事件。
複数の物語が描かれていきラストで絶妙にリンクしていく手法は伊坂さんにとってはお手の物という気がしますが、この作品はシンプルなストーリーの分かりやすさに埋め込まれた伏線の張り方とラストのつじつまの合わせ方という意味では高い完成度を誇っていると思います。
ちなみに僕はおもいっきり騙されましたけど、みなさんはどうでしょうか。。。
特に河崎に関するある秘密が明らかにするタイミングなんかも、最初読んだ時は、えっここで、と思ったのですが、ラストまで読むと実は絶妙のタイミングだったんだなと思いますし、過去と現在の2重構造も上手くお互いを補完しあっていて、ラストまでどうなるんだろうとやきもきさせられました。

また、今回は登場人物の描き方もいいなあと思うんですよね。
何しろ変に強い人間がいないというかなんというか。
伊坂さんの作品によく出てくる破天候タイプのキャラとして、河崎が挙げられると思いますが彼も含めて強さの裏側にきちんと弱さを持っているんですよね。
2年前の語りべ琴美にしても、口も性格も強気なんだけど実はむちゃくちゃ怖がってるというのも人間ってそんなもんだと思うし、現在の語りべ椎名も考えと行動がなかなか一致しないジレンマみたいなところは、すごくわかるわかると思いました。
また逆に弱さが強さに変わる一瞬の描き方も、その理由付けも含めてしっくりきました。
伊坂節ともいえるライトで粋な言葉選びもこの作品においては、弱さを隠す強がりの表現というところで絶妙に効いてるし、ある意味この段階での伊坂さんの持っている小説家としてのパーソナリティが遺憾なく発揮されてるといえるのかもしれません。

それにしても、この作品が発表された2003年は他にも『陽気なギャングが地球を回す』『重力ピエロ』が発表された年ですし、まさに伊坂作品にとって飛躍の年だったんだな~。
ただ吉川英治文学新人賞受賞作というのが・・・新人?