『乱鴉の島』(☆3.5)



友人の作家・有栖川有栖と休養に出かけた臨床犯罪学者の火村英生は、手違いから目的地とは違う島に連れて来られてしまう。通称・烏島と呼ばれるそこは、その名の通り、数多の烏が乱舞する絶海の孤島だった。俗世との接触を絶って隠遁する作家。謎のIT長者をはじめ、次々と集まり来る人々。奇怪な殺人事件。精緻なロジックの導き出す、エレガントかつアクロバティックな結末。ミステリの醍醐味と喜びを詰め込んだ、最新長編。


火村シリーズ4年振りの長編にして初のクローズド・サークル物(だよね?)。
4年前といえば、日本推理作家協会賞受賞作『マレー鉄道の謎』ですか、正直あまり好きな作品ではなかったな~。
っていうかあまり作家アリスは好きじゃないので。

正直なところ、作家アリスの作品では一番面白かった。
もちろん通信の途絶えた孤島、そこに集う謎の集まり、隠遁生活を送る老詩人、そして烏(カラス)の鳴き声。
古典本格のノリが好きな僕の心をくすぐりまくりの小道具の配置は、学生アリスに近いんじゃないかとすら思いました。

烏の存在が示すポーの有名な詩の引用を初めとした全編にふんだんに盛り込まれた詩に関する薀蓄は、作品の世界に彩りを加えるだけにあらず、それそのものが秀逸なエピソードとして読めますし、それそのものが事件の真相を暗喩してると受け取れなくも無い。

ただ犯人の動機と火村が真相に至る過程というのが少々肩透かしという印象を受けた。
これは個人的な願望なので「そんなのお前の勝手だ」といわれればそれまでなのだが、それまで構築してきた世界からは大きく浮いてしまっていると思う。というよりも、動機とある人物への心酔っぷりを考えると、「犯人がいるなら名乗り出てください」というお馴染みの場面で自供した方がすっきりする。

さらにクローズド・サークルの中で部外者といえる火村(とアリス)が、明らかに大きな謎を共有している登場人物の言葉を安易に信じている部分がチラホラと見受けられる。
別の場面では登場人物の言葉を懐疑的に捉える部分も見受けられただけに、やや作者による恣意的な物を感じないではない。
火村のロジック自体は綺麗に積み上げられているが、その前提が容疑者の証言を恣意的に採用している印象を受けたの残念。

ただこの作品を上梓したことによって、火村シリーズにとっても大きな転換点となる気がしないでもないし、火村に初めて好感を持てたという意味では僕にとっても大きい作品なのかもしれない。
それでも僕が学生アリスが好きなんだけどね。