『ビニ本団長と鉄板句女』 第8回「女将の謎」

第七回はこちら

「あいあいさ!!乙女組の面子にかけて頑張っちゃいましたよ!!
重大な情報をGet!(ウインク♪)してきちゃいましたあ!ヨ・ロ・シ・ク♪」
怪しいのに、か、かわいい。

「じゃあ、皆さん、純朴さんのお話を伺いましょうか‥」

ビニ本団長と鉄板句女』 第八回「女将の謎」


バッチリと仮装を決めた常連客達が息を呑み純朴の言葉をまつ。


「あれから純朴は、シュタッと本楽堂協会の住所になってるビルに向かったのです。そのビル前で見たのは・・・・」


見たのは?ああ、ドキドキする・・・・。
胸高まる鉄板句女、そして店内の常連客達。


「な~~~んと、純朴の友達みら~ちゃんでした!!」


み、みら~ちゃん!?また怪しい・・・いや新たな人物が登場!!
しかも純朴さんの友人って事は、その人も忍者なのかしら・・・・?


「みら~ちゃんはですね、昔バイトが一緒だったのです!!これって凄いですよね!!
う~~~~~~、う・ん・め・いって感じ♪」


いや、運命はいいんですが、そのみら~ちゃんと本楽堂となにか関係があるの?
いやあるんだよね。その報告な訳だし・・・


「みら~ちゃんによるとですね、この夏くる最高のデザートは・・・・・・てらみすっだそうです!!」


シーン・・・・・・静まり返る店内。
てらみすっ?ティラミスの事?うん、美味しいよねティラミス・・・
でもそれってかなり前に流行ったんですけど・・・それともリバイバル・ブームがくるのかしら。
そもそもティラミスと本楽堂がどう繋がるんだろう?


「つまりですね~~~、『Katty's Cafe』でてらみすっをメニューに加えるとですね、売り上げ倍増!!
う~~~~、純朴って役立ち人!!」

「じ、純朴さん・・・・その売り上げ倍増は嬉しいのですが、本楽堂の調査の方はどうなったのかしら?」


頬をピクピクさせながら、katty店長が純朴に聞く。そう、そこが重要!!


「あっ、本楽堂ですね!!ちゃんと調べてますよ~!!
実は・・・・・・・・その場所には私書箱しかなかったっす!!
だから分りませんでした!!う~~~~チャンチャン♪」


チャンチャンじゃないって!!そこが重要じゃん!!
そもそもスパイってそこから調査をしてこそのスパイじゃん!!
それぐらい私だって出来るわ!!
鉄板句女、思わず小声で毒づく・・・。

その瞬間、背中から突然恐ろしいまでの殺気が!!
おそるおそる振り返ると、そこにはサングラスの奥で妖しく瞳を煌かせているkattyさん・・・。
妖艶な唇が開き、


「純朴さん・・・・お仕置きね♪」


ひっ、お仕置き???店長のお仕置きって、想像がつかなくて怖いんですけど・・・。
あんな事やこんな事・・・・もしくはあれを使って・・・・ひぃ~~~~~~
思わず誰か止めるものはいないかと店内を見回す鉄板句女。
しかし常連客は店長の醸し出す殺気に臆したのか息を呑むばかり。
あろうことかまぁまぁに至っては、まるで自分がお仕置きを受けたそうな表情をしている。

当の純朴は、首をうな垂れシュンとしている。
その時、唐突に純朴をかばう言葉が・・・。


「あの差し出がましいようですが、あまり厳しい事もおっしゃるはどうかしら?
もう一度チャンスを与えてもよろしいんでは?」


鉄板句女が声の聞こえた方を振り向くと、そこには女将がいた。
絡み合う女将とkattyの視線。息詰まる常連客達・・・。


「そうね。私もちょっと興奮してしまったようね。ごめんなさい純朴さん。」


ふぅっと店内の空気が和らぐ。
サンキュー、女将さん♪
でも、あの店長と渡り合えるなんて、この女将さんってただ者じゃないわね。
あ~、アーニスさんとの関係、ほんと気になるなあ・・・。


「こうなったら、あとは川柳大会で直接乗り込むしかなくなりましたね。」


アーニスが話をまとめ、常連客やkattyも頷き、再び川柳大会に向けての打ち合わせが始まる。

しかしながら変装とは名ばかりの仮装を楽しんでいるとしか思えない参加希望者達。
そこかしこではじまるのは、お互いの仮装に対する意見の交換ばかり。

不毛だな~。っていうかただでさえ怪しい人たちばかりなのに、変装でさらにグレードアップしてるもんな~。
唯一まともそうなのは、アーニスさんだけだけど、そうはいっても眼鏡外してるだけだし。。。
あっ、でも眼鏡外すと昔の文学青年ばりの憂いを帯びた美貌が倍増されて逆に目立つかも・・・。
そうすると、やっぱり私が頑張るしかないわ!!

鉄板句女は心の中で決意をする。
思えば結婚して以降、ここまで決意を持って行動しようと思ったのは初めてかも。
家出っていても私のは成り行き任せのプチ家出だしね・・・。
よ~し、そうなったら私はどんな変装にしようかな。
こんな服装はどうかな・・・う~ん、似合ってるんだけど変装って感じじゃないかな~。
お出かけする主婦って感じだし・・・
そしたらこれは・・・おっ、ちょっといいかも・・・・でもマダム白猫とかぶりぎみかも・・・
いかんいかん・・・・

・・・・鉄板句女、頭の中で自分を着せ替え人形に見立てて、いろいろな変装を妄想する・・・
しかし本人は気付いていなかった。
彼女の想像する変装も周りの常連客と大差ないということを。


「申し訳ございません。トイレはどちらでしょうか、興奮して汗をかいてしまいましたので化粧を直したいんですが。」


そういい席を立ったのは女将だった。
そりゃ汗をかくわよね~。あのアザラシの被り物、暑そうだもんね・・・・。
っていうか、あの顔って化粧してるの?うーん、いや確かにかわいいんだけど、どこをどうみても化粧してるって感じじゃないわよね。
あっ、実はあのあざらし顔、特殊メイクで落とすと実は・・・・なんてね(笑)。

kattyにトイレの場所を聞き、そこに向かう女将。
トイレは店の奥まった場所にあり、その入り口付近はちょうど鉄板句女の座ってる位置からしか見えない。
なんとなしに女将を目で追う鉄板句女。
他の人は変装で盛り上がり女将のことなどまったく気にしていない。

女将はトイレの前で一度立ち止まると首のあたりに両手をかけた。

ああ、そっか、被り物とるんだね。そりゃそうだ。あれしてたら化粧しづらくてしょうがないもんね~。

ポンッ♪

その瞬間、鉄板句女の目に衝撃の光景が飛び込んできた。
なんと、被りものといっしょに女将の首から上が取れたのだ。

ぬおっ、く・・・首とれた~~~~~~~!!!!
あの首とか頭も被り物だったの???被り物の上に被り物???
いやそういう問題じゃなくて・・・ええ~~~~???

女将の頭(だと思ってたところ)にはウエ~ブの掛かった長い髪をなびかせた女性らしき頭の後ろ姿。
驚く鉄板句女をよそに女将は被り物のついたあざらしの頭を抱えトイレの中に入っていく・・・。

ええ~~?今のはなに?
女将って人間???
いや普通に考えればそうなんだけど・・・・なんだか残念だなあ~
いや、そういう問題じゃなくてなんであんな格好してるのよ?
っていうか、じゃあ、あれ体部分も気ぐるみなのかしら?

あまりの光景に振り返り店内を見回す鉄板句女。
しかしただでさえ他の場所からは死角な上、変装の評価に夢中になっている常連客達は誰一人その光景を目撃していなかった。

うわ~~~~、こんな話しても誰も信じないよね~。
女将が実は2重に被り物をしてたなんて・・・
あっ、だからかんざしがぶっ刺さっていても痛くないのか。
よ~し、ひとつ謎が解けたぞ、満足満足。
おいおい、それでいいのか鉄板句女?


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そのころ、「Katty's Cafe」のある街からもっとも近い飛行場に、中国からの特別チャーター機が到着していた。
ドアが開き、タラップに降り立ったのは一人の男。

「やっと戻ってきたぜ、マイカントリーニッポン。」


一体この男の正体は?
いろいろな思惑渦巻く波乱の本楽堂協会川柳大賞開催日まであと少し・・・。



                                            (第九回へつづく)

※店の名前、個人名などはほぼフィクションです(笑)