『銃とチョコレート』



少年リンツの住む国で富豪の家から金貨や宝石が盗まれる事件が多発。現場に残されているカードに書かれていた"GODIVA"の文字は泥棒の名前として国民に定着した。その怪盗ゴディバに挑戦する探偵ロイズは子どもたちのヒーローだ。ある日リンツは、父の形見の聖書の中から古びた手書きの地図を見つける。その後、新聞記者見習いマルコリーニから、「"GODIVA"カードの裏には風車小屋の絵がえがかれている。」という極秘情報を教えてもらったリンツは、自分が持っている地図が怪盗ゴディバ事件の鍵をにぎるものだと確信する。地図の裏にも風車小屋が描かれていたのだ。リンツは「怪盗の情報に懸賞金!」を出すという探偵ロイズに知らせるべく手紙を出したが…。 

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当初の予定ではこれが乙一デビュー作になる予定でした。それがいろいろ薦められた事もあり主要作品を先行して読むこととなり、乙一さんの世界にどっぷりはまり込んでしまいました。
では、もしこれが乙一デビューであったらと考えると・・・それはそれでやっぱりはまったでしょうね。

ミステリーランドのコンセプトとしては、倉知さんの『ほうかご探偵隊』と並んでその理想系といえると思います。
あえて言うなら、『ほうかご~』は絵が最高にキュートだったのに対し、こちらは無意味に絵が怖いぐらいの違い?(装丁はランドの中でも最高に近いとは思いますが)

そうはいっても倉知さんがかなりミステリ寄りの作品だったのに対し、こちらはどちらかというと冒険譚の要素が強いです。
聖書から発見された怪盗のものらしき暗号、それを追いかける名探偵と主人公、スリル満点の旅、隠された真実、登場人物の意外な正体・・・字面だけでも子供か空想の中で想像するようなものがいっぱい詰まっています。
また乙さんの文章が上手いのか、風景や人物の描写が非常にイメージしやすいので子供が読んでも今主人公がどうなってるんだなんてのもパッと絵が浮かんでくるんじゃないですか。

そして、物語における「善と悪」の価値観のありかた。これは乙氏の作品によくみられる物のひとつだと僕は思ってるのですが、この作品ではその境界線がより曖昧になっている。これは言い換えると大人にとっての「善と悪」、子供にとっての「善と悪」の認識のされ方である。
子供に読ませるという意味においてこの本の一番いいところは、結局自分にとっての「善と悪」が何なのかは結局自分で確かめるしかないんだという部分が伝わってくるところだと思う。そして大人にとっては、それが自分の中でいつのまにか失われてるという事に気づかされる。
そういう意味では、ほんとうに子供が読んでも大人が読んでも楽しめる小説だと思し、それまでの乙一作品とは違う雰囲気を持ちながらも、やっぱりこれは乙一作品なんだと思う。

まあ、小難しいことはどうでもいい。面白いものは面白いんですけどね。