『感染』 著者:仙川環


ウィルス研究医・仲沢葉月は、ある晩、未来を嘱望されている外科医の夫・啓介と前妻との間の子が誘拐されたという連絡を受ける。幼子は焼死 体で発見されるという最悪の事件となったにもかかわらず、啓介は女からの呼び出しに出かけていったきり音信不通。痛み戸惑う気持ちで夫の行方を捜すうち、 彼女は続発する幼児誘拐殺人事件の意外な共通点と、医学界を揺るがす危険な策謀に辿り着く―。医学ジャーナリストが描く、迫真の医療サスペンス!第一回小 学館文庫小説賞受賞作。

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あまりす先生の紹介文に煽られ、図書館で借りこの度読了。
詳しいあらすじは あまりす先生のブログの記事 が非常に丁寧かつ絶妙ですので、そちらも参考になさって下さい。

で、感想。
医療ミステリというと、どうしても専門用語が飛びがちで理解するのがちょっとやっかいな作品が多かったりするんですが、これはスラスラ読めました。
いい意味で2時間ドラマのようにとっつき易い流れと、表に出てくるストーリーが医学の中でも比較的身近に聞くテーマ(だと思う)なのがその要因だと思います。
医学音痴なので、裏の部分に関する技術的な問題が現在の医学で可能なのかという疑問はありましたが、別にこの小説の場合現実に必ずしも守らなければ、という部分も感じないのでありではないでしょうか。

で、疑問というか気になったところ。
物語はほとんど仲沢葉月の視点で語られる訳ですが、ところどころで刑事やジャーナリストの視線で語られるトコロがあるんですが、これはその比率からいっても葉月の視点で統一した方が物語に深みが出るのではないかと思ってしまいました。
真相解明の部分で、どうしても他者の視線が必要な場面がありましたが、これは工夫できる余地があるように思います。

そして、真犯人の動機に関する部分で、殺人を犯す原因となったある事項に関して何故犯人側がそれを知らなかったのか、説明不足な点が1箇所だけあります。
この事項に関して犯人側が知っていたら、物語の展開が大きく変わる可能性があるだけに、きちんとフォローするべきでしょう。

とはいっても、全体としてみれば平均点はありますし、久しぶりに懐かしいものを読んだ気になりました。