『探偵伯爵と僕』



夏休み直前、新太は公園で出会った、夏というのに黒いスーツ姿の探偵伯爵と友達になった。奇矯な言動をとるアールと名のる探偵に新太は興味 津々だ。そんな新太の親友ハリィが夏祭りの夜に、その数日後には、さらに新太の親友ガマが行方不明に。彼らは新太とともに秘密基地を作った仲間だった。二 つの事件に共通するのは残されたトランプ。そしてついに新太に忍びよる犯人の影。

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理系ミステリーと呼ばれる森作品(僕はあまりそう思わないんですけど)。
どういったのを書くのかな~、と思ったらとってもらしい作品に仕上がってました。

思ったよりもジュブナイルを意識した文章や構成が見られたのは正直意外だったんですが、それなりに形にはなってると思います。
探偵伯爵の存在も適度に怪しくて、秘密基地、謎のトランプカードと盛り上がれる要素は盛りだくさん。

ただ、あまりにもジュブナイルである事を意識しすぎて逆効果になってるのではないかと思うところが結構ありました。

まず主人公の少年。妙に感情に乏しい。たんに理論的なキャラクターと考えられなくもないですが、友達の少年二人が殺されてるかもしれない可能性を伯爵から告げられても、あまり、というか全然動揺しません。
これはどうなんでしょう?いくら理論派でも身近な人がそんな目にあってるかもしれないと想像したらもっと反応するんじゃないでしょうか。
そのわりに自分の事だけにはいろいろ反応したりします。
実はこの部分はラストでの少年の独白の伏線になってる訳ですが、物語が伏線の犠牲になってしまってるのが残念です。

そしてこの主人公、やたら一人突っ込みをしてます。
大体が伯爵の古めかしい言葉に対するものなんですが、これは恐らく難しい言葉に対する著者のフォローだと思うのですが、これがあまりに多すぎて読み手のリズムを崩してしまいます。
確かに伯爵の喋る単語は古いのが多いし、今の子供たちには分かりにくいものもあります。だからといって、伯爵の言葉を変えるとキャラそのもののイメージを崩すので難しい。
この書き方はその結果だと思いますが、でももう少し子供の想像力を信じてもいいんじゃないでしょうか。
子供は知識がない分、それを大人より優れた想像力を発揮出来ると思ってます。この小説にでてくる単語のほとんどは想像力で補えるものだと思うので、これはもう少しなんとかしてほしかった。

最後に、それまでの二つを踏まえて、主人公の考える事があまりに哲学的なような気がします。
冒頭から主人公は伯爵に「なぜ人は平気で虫を殺すのに、犬や猫は駄目なのか」という質問を投げかけられます。
たしかに意味のある質問だと思いますが、これを代表するようにこの小説にはおそらく森さんの伝えたいメッセージや思っている事だろうという言葉がふんだんに盛り込まれてます。
それ自体は悪いとは思わないですが、それが物語の中で大きく浮き上がってしまい、結果として小説の面白さを損なっていると僕は思いました。

構成自体はそれなりに悪くないし、伯爵のキャラ立ちもまずまず、行動の理由付けもきちんとしてるだけに、森さんの子供に対する親切心が裏目に出てしまったような気がして、ちょっと残念な感想になってしまいました。