『透明人間の納屋』

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透明人間はこの世に存在する。人間を透明にする薬もある。見えないから誰も気がつかないだけなんだ、この町にだっているよ。…学校、友人、母親、すべてに違和感をもって生きる孤独な少年、ヨウイチがただひとり心を開き信じ尊敬する真鍋さんの言葉だ。でもどうしてそんな秘密を知っているのだろうという疑問がぬぐいきれないでいるところに、不可解な誘拐事件が発生した。密室から女性が蒸発したかのように消失したのだ。透明人間による犯行だと考えると謎は氷解するのだが。

yahoo紹介より

徹頭徹尾、島田荘司である。そういうしかない小説。
謎の透明人間になる薬、ホテルでの不可解な人間消失事件、何の苦しみの無い国の存在、
想像すらつかない事件の真相。
そしてなにより全体を貫く島田流社会理論が、これを島田作品たらしめてると思います。

でも、これってミステリーランドで書くものなの?という疑問がどうしても浮かびます。
まず、導入部。主人公のヨウちゃんと隣人である真鍋さんとの会話、これが非常に辛い。
おもに宇宙と地球の関係についての話が続きますけど、なんだか理解しにくいです。
かなり専門的(とはいってもそこまで難しい知識じゃないですけど)な内容の部分が、
読んでてもイメージがわかない。
一つには僕自身があまり興味が無いジャンルっていうのがあるのかもしれないですけど、
それしてもなんだか文章が、知ってるのが当然といった思考で貫かれてるような気がします。
これが専門書とかだったらありだと思うんですけど、この作品は小説であり、さらには子供という年齢を対象に含んでるとなると、もう少し読ませるという工夫が必要なんじゃないかな~。

ちょっとそれますが、最近の島田作品はなんだかイマジネーションの伝達が弱くなってる気がします。
特に情景描写や専門的知識(脳に絡む作品など特に)において、文章が変化したのか、
すごく散文的な気がするんですよね。
これは、『秋好事件』以降の社会的な問題や、脳医学への傾倒を見せ始めたことによる弊害なのかな~。
単体としてこのノンフィクション系の作品は、それなりに面白いのですが、小説は小説としておもしろさをもっと追求してほしいかな。

とはいいつつも、何気に人間消失事件が起きるあたりからは急に面白くなります。
事件の詳細を説明するときに、推理作家松下謙三(この名前がまた泣かせますね)のレポートとして書かれてあるあたりは、語り部が小学生っていうのをふまえての工夫だろうし、事件の真相(特に動機に関する部分と、真鍋さんの正体)なんかは、島田荘司じゃないとやんね~だろうという感じでかなり良かったです。
少年と真鍋さんの別れの場面では、ちょっとぐっときちゃいました。
ただ、人間消失事件の真相は・・・・・これはちょっと酷くないですか?読者に対するミスディレクションがあまりにも不親切すぎると思うし、なによりいくらなんでも警察の捜査を馬鹿にしてるような・・・。
このあたりは島田さんの警察に対するスタンスが関係してたりなんかして。

トータルとしてみると、読みえたらそれなりに面白い。
でも、冒頭部分の出来の悪さ(子供は最初面白くなかったらなかなか読み続けないと思うんですけど)と、ミステリーランドで書く小説なのかという疑問が僕にはどうしても残るので、点数は引かざるをえないかな~。


総合  2.6