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『福家警部補の挨拶』(☆4.0) 著者:大倉崇裕

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現場を検分し鑑識の報告を受けて聞き込みを始める頃には、事件の真相が見えている? おなじみ刑事コロンボ古畑任三郎の手法で畳みかける、4編収録のシリーズ第1弾。福家警部補は今日も徹夜で捜査する!

 

最初に断っておきますと、ミステリ好き・ドラマ好きなのに恥ずかしながら「刑事コロンボ」を見たことがありません。
今だったら楽しみに見ているのでしょうが、昔から海外ドラマというのが苦手でして、唯一見たのが「ツイン・ピークス」(←これもブームがとっくに過ぎた頃に、吉村達也さんの「時の森殺人事件」シリーズを読んだ影響で見ました)なのです。
だから「刑事コロンボ」へのオマージュといっても、頭に思い浮かぶのは古畑任三郎ですが。

 

閑話休題
とにもかくにも倒叙モノばかりの短編4作を収録したこの作品。共通するのは事件を解決するのが、小柄で決して警察官に見られない女性警部補福家さん。
コロンボと同じく名前が明らかになることのないこの女性、とにかく頭がいいです。そして徹夜に鬼のように強く、酒にはもっと強い。
現場に残されたちょっとした物証から、完全犯罪を目論む犯人にぐいぐい迫っていきます。
対する犯人もコロンボや古畑にも共通するそれなりに成功した人物達。専門的な知識をバックに懸命に隠蔽しようとします。

 

全編を通して、犯人達が決して極悪とまではいかずどこか切迫感に駆られて犯罪を犯したという印象があり、福家警部補のキャラが薄い分彼らがいい意味で印象の残る犯人として記憶できるのも著者の狙いなんでしょう(古畑から察するにコロンボもそうなのかな?)。
もちろん細かいところであまりにご都合的なミス(特に第2話のビンの破片、犯人が元科警研の人間ならそこには気付きそう。)も無いわけではないですが、犯人を追い詰める時にはきちんと論理立てできるので、読みわってひじょうにさっぱりした気分になれました。
この人間としてエゴの極致ともいえる殺人という現象を描きながらも、どこか飄々としたコメディっぽい雰囲気を漂わせているのは「落語シリーズ」にも通じる大倉さんの持ち味なんでしょうね。

 

個人的に気に入ったのは『オッカムの剃刀』。
犯人が犯行を認めたあとに、「いつから疑っていたんだ」というお馴染みのくだりで、かなり捻りの効いた答えを出していて心に残りました。
次は『愛情へのシナリオ』。
それにしてもどれも読み終わると、あの古畑のエンディングテーマが聞こえてきそうでした(笑)。

 

徹頭徹尾コロンボへのオマージュ(多分)精神に溢れるがゆえに、やや没個性な印象も無くはないですが、そこもまた作者の理解のうえでしょう。
このシリーズが書き綴られていくうちに、大倉版コロンボが完成していくのかもしれません。
いやあ、それにしても「落語シリーズ」に「福家警部補」シリーズ。どちらも続編が待ち遠しい。
とりあえずそれまでは、大倉さんが書いた「刑事コロンボ」のノベライゼーションでも探してみましょうか。
 
採点   4.0

(2006.12.9 ブログ再録)