たいりょうのちょっと一息

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『やさしい死神』(☆4.4) 著者:大倉崇裕

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本書には、死神にやられたとのメッセージに首をひねる表題作を皮切りに、物足りない芸ゆえに先行きを危ぶまれていた噺家二人が急に上達する「無口な噺家」、元名物編集長の安楽椅子探偵譚「幻の婚礼」、携帯事件に始まり牧&緑コンビ定番の張り込みで決する「へそを曲げた噺家」、『幻の女』ばりに翻弄される緑の単独探偵行「紙切り騒動」、バラエティに富んだ五編を収める。デビュー作品集『三人目の幽霊』、初長編となった『七度狐』に続く、好評落語シリーズ第三弾。

 

『季刊落語シリーズ』(べるさんの呼び方に倣いました♪)第3弾は再び連作短編集。
一読して、うまいな~、と思わずうなってしまいましたよ。デビュー作の連作短編『三人目の幽霊』もなかなかのものと感心してしまいましたが、それと比しても物語と落語の絡み具合が数段濃密になった印象です。

 

どの短編も冒頭は落語の一席から始まりますが、実はそれがそれぞれの短編の主題になってるんですよね~。
つまりは2,3話読むとそれぞれの物語の真相がどういう方向に進んでいくか想像する事ができます。
にも関わらず、それぞれのオチで気持ちよく投げられてしまいました。
まさに素晴らしい落語の1席を聴いたような気持ちよさ。

 

わかっちゃいるのに騙される、わかっちゃいるのに涙ぐむ。
落語ですよね、これ。
古典落語が長い間かけて構築した語りの流儀の骨組みを素材に流用しつつも、そのうえに本格ミステリをのっけて料理し、なおかつ素材の新鮮さをきちんと生かしきっている。著者の力量、そして落語への造詣の深さのなせる技なのか(←実際どうか知りませんが)。
ひとつひとつのネタ(トリック)は決して大技でない、むしろ地味なものなのですがその伏線の張り方と回収の仕方が丁寧で、見せ方の重要性を改めて感じさせてもらいました。

 

また過去2作では芸に生きる人間のドロドロした心情が根底に流れていたのに対し、この短編集は同じ芸に生きるのでも、同じ道を歩む人間に対しての細やかな感情の機微が描かれていて、読了後の気持ちよさという意味で本当に心が温かくなりましたね~。

 

同時に過去2作に較べると、緑の成長譚的な要素がより強くなってきたのも、シリーズのもう一つの楽しみ、継続して読みたくなるネタとしてはいい所を着いてると思います。同じ落語を舞台にした『円紫さんと私』シリーズの“私”に較べても、より人間臭い弱さをプンプン撒き散らす緑だけに、感情移入度が高くなってしまうのは僕だけでしょうか(笑)。
ちなみに収録作の中ではラストのささやかなドンデン返しに落語を感じさせた「無口な噺家」が一番好きだったです♪

 

後書きでは緑に恋人が出来るかもしれない、と書かれたし続編が早く読みたいシリーズになってきましたよ♪
っていうかここまでサービス残業をさせてて、そのうち告発されないか非常に心配ですが(笑)。

 

採点   4.4

(2006.11.25 ブログ再録)