『蒲公英草紙』(☆4.0) 著者:恩田陸

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懐かしさと切なさあふれる感動長編。
20世紀が幕を開け、少女の心は変化の予感にざわめく。折しも村に不思議な一家がやってきて――。運命が導く出会い、果たされる約束。今最も輝いている作家・恩田陸の魅力あふれる感動作。

 

『光の帝国』に続く常野一族シリーズ第2弾。
この作品の舞台は明治時代の山村。そこに住む一人の少女峰子の視点から、村に住むお金持ち槙村家の人々と彼らを訪ねてきた春田一族の物語が描かれます。

 

『光の帝国』が短編集だったのに対し、こちらは長編。
もっとも印象的ともいえる「しまう」という行為を持つ春田一家と、槙村家に生まれながら「遠目」の能力を持った病弱な少女聡子のつなげ方は非常に素晴らしいと思う。
恩田作品に時折見られる確信犯的な物語のぎこちなさはそこにはなく、むしろある種読者の予感どおりに物語が進みます。

 

そういった意味では意外性というの無いですが、作中そこかしこに散りばめられているラストへの暗喩ともいえる台詞の使い方は、「ああ、ここに結びつくんだ」という驚きを感じさせてもらいました。
文体も時代を意識した特長あるものを用いつつも、物語全体を包む優しくも切ない空気に非常にマッチしていたと思います。
聡子の死後、春田光比古を通して聡子の生き方をみなが感じていく場面はいまもっとも失いつつある人の心が浮き上がってくるようで涙ぐんでしまいました。
それにしても聡子と椎名、そして峰子と廣隆の関係はほんと切なかったなあ~。

 

ただエピローグともいえるラスト、年齢を重ね第2次世界大戦に翻弄された峰子の思いというのが、聡子に関するエピソードからうける印象からはちょっとそぐわない感じもしましたね。
聡子の死を通じ、なお生きていかなければいけない中で彼女が、そして春田一家が残した言葉を背負い生きてきつつも最後の最後に疑問を提示されてしまう部分に関しては、やや著者の主張が前面にでてしまったような印象をうけて興醒めしてしまったかな。
そういった意味では槇村家の書生である新太郎をもっと効果的につかえたんじゃないかなというのがありました。
それはそれで印象的なラストではあるんですけどね。

 

ただシリーズを貫く視線というのはこの2作目ではっきりしてきたような感じがします。
そういった意味ではこれからも書き続けてもらいたいシリーズだなと思いましたです、はい。


採点   4.0

(2006.11.18 ブログ再録)